小倉まちじゅうモール

小倉まちなかコラム

気負わずに“好き”を纏う自由がある。老舗呉服店が提案するきものと私のいい関係【呉服の粋 ふくひろ】


魚町二番街に店を構える呉服の粋ふくひろ。その凛とした佇まいに思わず敷居の高さを感じてしまうかもしれませんが、心配ご無用。祖父の代から90年近く続く老舗でありながら「お買い物をしなくても大丈夫ですよ。いろんなきものを見て、触れて、一緒に楽しみましょう」と話すチャーミングな福治さんご夫婦が優しく出迎えてくれます。ここで出会えるのはお二人がこだわり抜いた品ばかり。それぞれ商品が持つストーリーを話し始めると、時間が経つのも忘れてしまうと笑う福治夫妻と過ごす格別な“きもの時間”を体験してみては。

小倉はきものが似合うまち。

「小倉のまちはコンパクトなので、きものを着て出かけるのにちょうどいいサイズ感だと思うんですよ。おでかけして疲れたら喫茶店でお茶して、バスや電車に乗って帰る——それができるほどよい大きさのまちだから、きものを着る方も多いんだと思いますね」と話すのは、ふくひろ三代目の店主・福治 督浩さん。小倉の商店街には今も呉服店が数店あることからも、きものを愛好する人の数が多いことが見て取れます。

ふくひろの創業者である祖父は大分県佐伯の出身。かつて魚町にあった呉服店〈米七〉で修行を積み独立しました。当初は馬借に店を構え、昭和30年頃に現在の魚町二丁目へと移ってきました。福治さん自身も家業を継ぐべく、京都の老舗呉服店〈ゑり善〉で修行を重ねました。京都の本店と銀座店の両方で働き、土地によってお客の好みの違いを実感したといいます。

「京都とか関西の方はちょっと派手め。東京は渋好みで粋なものがお好きですね。北九州の方は割にいろんな好みが混在している印象ですが、テレビや雑誌で見るきものに影響を受けたお客様も多く来られるので、江戸好みのきものを求める方がどうしても多くなる。うちの父も京友禅より江戸友禅を多く扱っていたので、本人も江戸寄りの好みだったんだと思います」

最近では、西日本に住んでいるから派手じゃないといけない、ということなく、好みのものを着る時代。修行時代にきものの個性化・多様化を目の当たりにしたことは、福治さんにとって大きな経験になったそう。今のふくひろは、東の粋なもの、西のちょっと派手めなものに加え、地元作家の商品も扱う多様な品揃えが特徴です。

北海道から沖縄の離島まで。夫婦で産地を訪ね、ストーリーを届ける

▲2階に上がると、色柄鮮やかなきものや反物がずらり。見ているだけでもテンションが上がる
▲2階に上がると、色柄鮮やかなきものや反物がずらり。見ているだけでもテンションが上がる

福治さんは学生時代に出会った京都出身の奥様・万里子さんと二人三脚で店を切り盛りしています。
ふくひろの店内に並ぶ品々には、福治さん夫妻が全国の産地へ足を運び、つくり手と直接向き合いながら選んできたものばかりです。沖縄本島から宮古島・石垣島の染織、北海道アイヌの「アットゥシ(厚司織)」(木の繊維で織られた布)。お二人が直接見て触れてきたきものは挙げるとキリがないほど。また、徳島の阿波藍農家などにも足を運び、藍染の奥深さも知りました。「産地に行ってつくり手の方の話を伺うと、反物をただ見るだけじゃわからないものが見えてくるんですよ」と万里子さんは話します。

「沖縄のつくり手が『戦後は、薬きょうを拾って染め始めた』『布がないからパラシュートをほどいて糸にした』というような話を直接聞かせてくれたからこそ、商品を説明する言葉にも熱と重みが生まれます」

「産地ごと、反物ごとにお伝えしたいストーリーが多すぎて、なかなか商売の話まで辿りつかないんですよ」と福治さんからも笑みが溢れます。

3回練習すれば自分で着られる。初心者にもやさしい接客が嬉しい

「きものは難しそう」「どこから手をつければいいかわからない」——そんな声に、万里子さんはにこやかに答えます。
「私はお茶を習っていたので、年に数回きものを着る機会はあったけれど、ほとんど素人でした。だからこそ、きもの始めをされる方の気持ちがわかるし、お役に立てることもあるのかなと思います。

子育てがひと段落して店に出始めた頃も展示会の時にしかきものを着ていなかった。でもそれではいつまでたってもきものと仲良くなれないような気がして。それからは母や祖母から譲り受けたきものを毎日着るようになりました。例えばきものの着方なんかも『もうちょっと簡単にできる方法はないだろうか』とか、自分なりに研究と失敗を重ねながらやってきたことが、今となってはお客様に共感してもらえたり、お伝えできることもありますね」

大切なのは、着こなしの正解を求めすぎないこと。きものにはある程度のルールもあるけれど、ルールよりも先に、自分が着たいという気持ちを大切にしてほしいのだといいます。

「桜が好きなら、年中桜の帯を締めたっていいんです。人から『なんで桜なんですか』って聞かれたら、『春生まれで桜が大好きなんですよ』って答えれば話が弾むでしょ。それでいいんです」と福治さん。

初めてのきものとしておすすめなのが、浴衣や木綿のきもの。ふくひろでは、手縫いでのお仕立て代込みで6万円前後から購入できます。洋服と違って流行がなく、多少体型が変わっても着続けることができるきものは、いわば一生もの。そう思えばそれほど高くない買い物に思えてきます。

「きものって洋服で言うとワンピースに近いイメージ。全身に柄をまとう楽しさを知っていただきたいですね。歳を重ねてなんとなく洋服が似合わなくなってきたと感じる方や、子育てがひと段落して自分時間を楽しめるようになった方が、きもの始めをされることが多いですね。だけどいきなり全部揃えるのはハードルが高い。例えば浴衣からだったり、お母様のきものに合わせる帯から始めるのもいいですね。お友達とシェアして着られる方なんかもいらっしゃいますよ」

自分で着られるようになりたいという人には、一緒に着付けの練習もしてくれるといいます。最近ではYouTubeで着付けをマスターする人も多いそう。「着たいという気持ちさえあれば、3回も練習すれば、ご自分で着られるようになりますよ」と万里子さん。きもの初心者にも寄り添ってくれる優しさと気軽に相談できる雰囲気が、ふくひろの敷居を下げています。

きものはSDGsの先駆けだった

▲ふくひろのお仕立てはすべて和裁士による手縫い。マイサイズのきものの着心地は格別だ
▲ふくひろのお仕立てはすべて和裁士による手縫い。マイサイズのきものの着心地は格別だ

きものの魅力を語るとき、万里子さんがとりわけ熱を込めるのが「長く使える」という価値です。

「洗い張りといって、一度反物の状態に戻して仕立て直すと、新品のような状態になるんです。きものはそうやって、世代を超えて着継いでいけるのがいいですよね。傷んだら羽織に、帯は巾着に——形を変えながら親しんでいけるのは、今で言うSDGs。きものは昔からそうだったんですよね」

そうした文化をつなぐためにも、ふくひろでは手縫いのお仕立てにこだわります。新しいきものを仕立てることで、染める人も、織る人も、縫う人も仕事が回っていく。きもの産業と文化が、循環していくことが、きもの文化を繋いでいくためには大切だと福治さんは話します。
「頑固だと思われるかもしれないけれど、そこは譲れない部分です」

呉服店は、きものという日本の伝統文化を継承していく場所。福治さんは「日本の伝統の中に自分の思いを込められることはありがたいなと思っています」とにこやかに語ります。万里子さんも「お客様がきものを纏ってパッと表情が変わる瞬間。あの嬉しい時間をいろんな方と共有できるのが、とっても楽しいお仕事なんです」と目を細めます。

「気軽に見てもらえるお店なので、ぜひ遊びに来てください」と福治さん。定期的に開催される展示会は初めての来店でも訪れやすい機会でおすすめです。

福治夫妻が伝えてくれるきものの奥深い話に耳を傾けつつ美しいきものの数々に触れていると、あっという間に時間が過ぎていきます。

「知れば知るほど奥深いきものの世界。きものを着て自分の新しい魅力を発見してください」
呉服の粋 ふくひろ 店主 福治 督浩

呉服の粋 ふくひろ
北九州市小倉北区魚町2-3-5
TEL:093-521-0329
営業時間:10:30〜18:00
定休日:日・祝(展示会時を除く)/仕入れ等による不定休あり
SNS:InstagramFacebook


取材・文/写真:岩井紀子

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