小倉まちじゅうモール

小倉まちなかコラム

古いもの、思いの詰まったものに再び命を吹き込むリメイクとお直しの店【リメイク工房M】

手芸用品店「ナカノテツ」の旧クラフト館B1に2024年8月にオープンした「リメイク工房M」は、着物や古布、廃材を使ったリメイク商品の制作や販売のほか、洋服などのお直しやリメイクのオーダーに対応してくれる店。26歳から東京でスーツの仕立て屋の補正室で技術を磨き、お直し専門の店での店長も経験した高橋 舞さんが自ら開いたアトリエです。店内にはお客から依頼されたたくさんの洋服がお直しを待っており、そのほかにも高橋さんのアイデアで作られたオリジナル商品が並んでいます。

とにかくミシンを踏める仕事をしたくて

高橋さんは父親が画家、祖母もハンドメイドが好きな人で叔母はニットの先生という、自分の手で何かをつくることが身近にある環境で育ちました。小さい頃から自分で思い描いたものをかたちにすることが好きで、小学校の工作の授業では「自分の作りたいデザインを貫いて、みんなとは違うものをつくるような子どもだった」といいます。

洋裁を最初に学んだのは、東筑紫学園高校の被服科。授業でつくっていたブルゾンにつける袖口のリブが市販の材料で合う色がなくて、細い編み棒で自ら手編みしてリブを編むなど、自分がいいと思ったイメージをかたちにする妥協しない姿勢を持った学生でした。

「学校の先生にとっては生意気で頑固な子どもだったと思います。でも頭の中で描いたものをつくりたいし、もしそれが思った通りにできなくても、なんで失敗したのかを考えて『また次にいいものを作ればいいじゃん』というスタンスで、子どもの頃からものづくりをしています。そういう考えは編み物から学んだことかもしれません。編み物って間違えてもほどいて編み直せますから。それにやってみないとわからないこともたくさんあるんです」

▲くるみボタンをつくる古い機械も、高橋さんの大切な相棒だ
▲くるみボタンをつくる古い機械も、高橋さんの大切な相棒だ

東京の文化服装学院に進学し、さらに服飾の知識と技術を身につけた高橋さん。卒業後はすぐには就職せず、アルバイトをしながら自分の作品づくりも続けていたそう。そのかたわら、歌舞伎町で働く人の衣装を作ったり、知り合いのバンドマンの衣装を作ったりもしていたのだとか。

「人に何か頼まれるとやってやろう!というタチなんですよね(笑)」
頼まれたらなんとかして応えたいと思う高橋さんの人柄は、今の仕事にもつながっています。

その後、工業用ミシンの勉強がしたくて、すぐに現場でミシンを踏める「お直し」の職に就きました。

「本当はもっと違う形でミシンを踏める仕事をしたい気持ちもあったんですけど、実際にお直しの仕事をやってみると、とても奥が深いことに気づかされました。みなさんいろんな事情があってお直しに出されていることを知って、やりがいを感じました」

思い出が詰まった洋服をどう直していくか、お客さんと話すことが楽しい

▲お客の要望を聞きながら、的確なアドバイスでお直し箇所を決めていく
▲お客の要望を聞きながら、的確なアドバイスでお直し箇所を決めていく

リメイク工房Mを訪れるお客の多くは、手芸用品店「ナカノテツ」に買物にきた人。自分でリメイクしようと思って素材を探しにきた人などが、ナカノテツで高橋さんの店を紹介され訪れることが多いそうです。

「ナカノテツさんに買物に来る人の多くは、本当は自分でつくれる人たちなんですよね。以前は裁縫をやっていたんだけど最近はやっていなくて、というおばあちゃんなんかがお直しの相談に来てくれるんです。そういう人がまた自分で作りたいなと思えるような、一緒にアイデアを出しながら手づくりをする人が元気になるような店でありたいと思っているんです」

▲リメイク工房Mはナカノテツ旧クラフト館のB1にある
▲リメイク工房Mはナカノテツ旧クラフト館のB1にある

コロナ以降、ウエスト周りのサイズが合わなくなったという相談が増えたといいます。昔から愛用していたものをまた着られるようになって元気になってほしい、困っている方のためできることをしてあげたいというのが、高橋さんの根底にある思いです。

「最近では、ご自宅が火災にあって背中に穴が空いてしまったベストをどうにかできないかと相談に来たお客さんがいらっしゃいました。そのベストは旦那さまからのプレゼントだったもの。その方と一緒に悩みながらナカノテツのレースコーナーまで行って、そこで見つけたお花のレースをあしらって、全面に裏地をつけることにしました。

お直しって“思い出を直す”ことでもあると思うんです。普通のお直し屋さんではなかなか取り扱えないようなこともしてあげたいと思ってこの店を始めたので、お客さんと一緒に話しながら自由に取り組めることにやりがいを感じています」

その評判は口コミで広がっているようで、取材中にも次々にお客が訪れていました。パンツのサイズ調整を依頼には、丈や裾幅の希望を聞きながら的確に提案をする高橋さんの姿がありました。また、商品を引き取りに来たお客のひとりはジャケットの襟を取ってノーカラーにリメイクしてもらい、満足そうな表情で帰っていかれました。

▲どんな要望にもすぐに応えられるようにと、さまざまなパーツが取り揃えられている
▲どんな要望にもすぐに応えられるようにと、さまざまなパーツが取り揃えられている

ファスナーの不具合も国内産のファスナーであればナカノテツに売っているパーツでその部分だけの交換で済むため、できるだけ早く安く、今あるものを生かしたお直しを勧めてくれるのも、高橋さんならではのお直しです。

「昔から編み物をしていたのでニットのほつれ直しも得意です。虫食いやほつれ箇所がわからないように、可能ならば脇の縫い目から糸をとって、それができなければ近い毛糸を探してきて修復します」

予算に応じてお直しの内容も提案してくれ「お直しのことならなんでも聞いてください」と、どこまでもお客に寄り添う姿勢は高橋さんのキャラクター。リメイク工房Mに行けばなんとかなる、そんな心強い存在です。

廃材リメイクで世界にひとつしかないものをつくりたい

▲廃材となったシートベルトを使ったオリジナルのバッグはすべて1点もの
▲廃材となったシートベルトを使ったオリジナルのバッグはすべて1点もの

次にどんなものを作るか考えるだけでもワクワクする、と高橋さんは楽しそうに話します。考えるのも楽しいし、ほかの人の意見も聞きたいからオーダーメイドも好きだと言います。

お直しだけでなく、着物や帯、古い前掛けのほか、シートベルトや消火栓のホースといった珍しい廃材をリメイクしたオリジナルの商品づくりにもチャレンジしている高橋さん。「素材が元々持っている素晴らしいデザインがあるから、それをリメイクすることに面白みを感じる」と話します。

「一つひとつに思い出があって、捨ててしまうことは簡単かもしれないけど、新しいものに作り変えて、そこに宿る思い出やストーリーも大切に繋いでいってほしいと思うんです。ほかの人がやっていることをしてもおもしろくないから、誰もやっていないデザインでつくりたいし、作品を見たら私だとわかるものをつくりたいと思っています」

店内には、高橋さんのリメイクのアイデアを刺激する古布や廃材が並んでいます。時には訪れたお客と
「こんなふうにしたらいいんじゃない?」とリメイク案の話で盛り上がるのだとか。

▲古布を使っておもしろいものを作りたいという高橋さん。大島紬はコートに、帯はリュックにリメイクする予定
▲古布を使っておもしろいものを作りたいという高橋さん。大島紬はコートに、帯はリュックにリメイクする予定

「学生時代に自分で一から洋服を作っていた時代は、自分の表現ばかりを追い求めていました。でも、お直しの仕事をしてみて昔からあるもの、愛着のあるものを大事に着ることには、新しいものにはないよさがあるんだなということが見えてきました」

古いものを大切にしながら、このまちで恩返しがしたい

▲廃材となった古い前掛けをショルダーバッグにリメイク
▲廃材となった古い前掛けをショルダーバッグにリメイク

ハンドメイドの楽しさ、古いものを蘇らせてまた着られるようにすることの意味を大切にしているリメイク工房Mを、今後どんな店にしていきたいかを伺いました。

「理想は廃材リメイクをしながら、自分のオリジナル商品を出していくこと。オリジナルの生地をつくって小物やバッグなど、新しいものを出していけたらなと思っています。まだそこまで手が回らないんですけどね」

漠然といずれオリジナルの商品を作りたいと修行の意味も兼ねて東京で働いていた高橋さんがリメイクに目覚めていった理由のひとつには、消費される洋服の現状に違和感を感じたこともあるといいます。

「たとえばハイブランドだと、商品が売れ残ったらブランド価値が下がるという理由だけで捨てられてしまうんです。その現実を目の当たりにして、私は一からものをつくるのは違うなと感じました。だったら、今あるお気に入りの思いの詰まった服をリメイクしてまた着られるようにした方が、その人のためになるんじゃないか、助けになれるんじゃないかと思ったんです」

▲高橋さんの父親が剪定した庭木で作っているバードホイッスル。鳥の鳴き声のような音が鳴り、それを聞いて野鳥が集まってくる
▲高橋さんの父親が剪定した庭木で作っているバードホイッスル。鳥の鳴き声のような音が鳴り、それを聞いて野鳥が集まってくる

店内には、東京の職場で一緒に働いていたおばあちゃんから譲り受けた編み機や昭和40年代のファッション雑誌もあり、ナカノテツに毛糸を買いに来る20代の編み物仲間に、古い編み図を見せながら編み物談義をする予定もあるのだとか。

「この店を通じてハンドメイドの輪が広まれば嬉しいですね。昔のデザインも素敵なものが多いので、今の時代に合うシルエットやアイテムにつくり変えたり、唯一無二なアイテムができるハンドメイドの楽しさをみんなと共有できたらいいなと思います」

長年服飾の仕事に携わる中で、学校で学ぶことも大事だけど、教えられたことを教えられた通りにやっているうちはダメで、自分の頭でしっかり考えて手を動かしていかないといけないと考えている高橋さん。

「そうじゃないと、生き残れない世界なんじゃないかなと思うんです。まだまったく満足していないし、満足したことなんて一度もない気もします。今の技術も大切だけど、昔の手仕事の技術も勉強しながら自分らしいものづくりをして恩返しをして、満足のいくものをつくれるようになりたいと思っています」

ハンドメイドの経験のある人ならわかる、ものをつくる時のワクワクする気持ち。高橋さんと話しているとそんな気持ちが蘇ってきます。着られなくなって困っている洋服のお直しはもちろん、リメイクのアイデアを貰いにいくような気持ちで訪れても元気がもらえる、リメイク工房Mはそんなお店です。

「頼まれたことをして喜んでもらえることが好き。この仕事はそんな自分を作ってくれた地元への恩返しです」
リメイク工房M 高橋 舞

リメイク工房M
北九州市小倉北区京町1-4-5 ナカノテツ旧クラフト館B1
TEL:070-8969-4453(店舗不在時は要TEL)
営業時間:10:00〜18:00(祝日は11:00〜17:30)
定休日:日曜(平日の休みはインスタでチェック)
SNS:Instagram


取材・文/写真:岩井紀子
     

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