京町銀天街に店を構える小林文具店は1925(大正14)年に小林合資会社として創業した老舗。事務用品などの一般文房具から、便箋やのし袋などに加え、大判の洋紙や和紙を豊富に取り揃える数少ない店です。特に和紙の品揃えが充実していて、折り紙や切り絵、ちぎり絵など、和紙を使った創作を楽しむ人にも頼りにされる存在です。
今秋100周年。地域に根ざした紙店として創業

今年100周年を迎える小林文具店。戦後は屋号を〈小林紙店〉とし、当時は印刷用紙や模造紙などのほか、お手洗いの落とし紙なども扱うなど、地域の生活に根ざした店として始まりました。店主を務める小林 慶昭さんは、祖父、父の後を継いだ4代目。祖父の時代はこの場所には店兼住居があり、中庭で犬を飼い、隣には土蔵も建っていたといいます。
1988(昭和63)年には、当時店主を務めていた父親が現在のビルに建て替えました。その際、井筒屋へと通じるビルの側面に文房具をモチーフにしたモダンアートのようなオブジェが飾られ、時代が経った今もおしゃれな雰囲気を醸しだしています。

「同じ京町銀天街沿いにある喫茶店〈カフェ ド ファンファン〉に事務所を借りていたデザイナーさんに父がお願いして作ってもらったそうです。やはり目を引くのか、この前で写真を撮っている方々をよく見ます」
一般文具に加え、さまざまな洋紙・和紙を取り揃える

小倉の商業地のど真ん中という土地柄もあって昔から事務用品などを買い求めるお客も多く、地域のニーズに応えてきた小林文具店。そのほかにも一般的な文房具類のほか、便箋やのし袋、ポチ袋などを種類豊富に取り揃えており、女性を中心に幅広い年齢層のお客が訪れます。
最近では京都の老舗文具店〈鳩居堂〉の商品も取り扱うなど、ほかの店では出会えないような品揃えも魅力です。また、色画用紙といった各種洋紙の品揃えも豊富で、自ら創作活動をする人にとって欠かせない存在となっています。サイズや色、紙の種類ごとに整然と収められた棚を見ていると、思わず創作意欲が掻き立てられます。色とりどりの洋紙は寺院や小倉祇園太鼓の山車の装飾などにも買い求められ、使われているそうです。

そして、小林文具店の中でも特筆すべきは和紙の品揃えの豊富さ。ビルへの建て替え後から多くのスペースを割いて和紙を取り扱うようになり、今では県下随一の品揃えを誇ります。
「四季折々の絵柄を印刷した大判和紙の和紙は、インテリアとして季節ごとに飾り替える方も多くいらっしゃいます。浮世絵や日本ならではの風景やモチーフをプリントした和紙は海外からのお客様のほか、外国の方へのプレゼントとしても人気がありますね」


そのほかにも雛祭りや端午の節句などの行事をモチーフにした和紙は、孫へのプレゼントとして買い求められることも多いそう。兜飾りを作れる折り紙セットなど手頃なものもあり喜ばれています。
2階は和紙専門のコーナー。日本文化独特の絵柄が美しい「総柄友禅紙」や色の濃淡や質感が味わい深い「手染め和紙」など、さまざまな種類の大判和紙が揃い、見応えがあります。


さまざまな絵柄や表情の和紙を求めて福岡市や大分や山口、遠くは大阪から足を運ぶ顧客もいるといいます。
和紙の用途はさまざまで、折り紙作品をつくる人から、カゴに和紙を貼り柿渋を塗る本格的な作品をつくる人、自宅のティッシュボックスに和紙を貼って楽しんだり箸袋をつくったり、ちぎり絵や切り絵に使ったり。みなさんそれぞれに創作を楽しんでいるそう。

「つい先日、海外からのお客様が木の年輪を魚拓のように写しとる木拓用にと、たくさんの和紙を購入して帰られました。紙類は持ち帰る際にも紙に折り目がつかないように丁寧に包装してお渡しするようにしています」
文具を通して想いを伝えるお手伝いを

市内でも文具専門店が数を減らし、大抵のものが100円ショップでも買える時代。また小倉駅周辺にも大手小売店が増え、専門店として生き残る難しさもあるといいますが、小林さんには文具店としての信念があります。
「私たちの仕事は、モノを売るだけでなく、人の想いを伝えるお手伝いをすることだと思っています。相手を想いながらレターセットを選び、気持ちを込めて手紙を書いたり、喜んでくれるかなと想いながら和紙や画用紙で何かをつくったり、絵を描いたり。ポチ袋やのし袋でお年玉やお祝いを渡すのも相手を想っての心遣いです。
私たちは文具店として、そうした方の想いを伝える手助けになれたらと思っています」
郵便料の改定で切手が高くなっても、便箋やハガキの売り上げにはさほど影響はなかったといいます。それは、人と人とのつながりや結びつきは変わりなく大切にされているということと言えます。
小林さんは文具を通じて、そうしたつながりが絶えることのないように、そして店とお客様とのつながりも大切にしていきたいと話します。
「自分で折った折り紙を見せに来てくれるお子さん、当店の和紙を使ってつくった作品をわざわざ見せに来てくださるお客様が多いんです。それだけ思いを込めてつくったものを見せていただけることは、当店の商品を気に入っていただき、お客様のお役に立てていると実感できる機会なので、純粋に嬉しいですね。家族で訪れたお客様がそれぞれに楽しく文具を選んでいる姿や、お目当てのシャープペンシルを見つけて喜ぶ中高生の姿も、微笑ましく思って見ています」

そうしたお客へのお礼の気持ちを込めて、小林文具店では次回使える割引券(現金支払いの場合のみ)を渡しています。また、外国人観光客には「少しでもいい旅だったと思ってもらえたら」という思いを込めて、手作りの折り鶴をプレゼントしています。
安さではなく、こだわりのセレクトを大切にしてきた文具店として、できる範囲で真心を伝えていく。そうすることでお客とのつながりを大事にしていきたいと考えているそうです。

この秋には小林文具店は100周年を迎えます。
「90周年の時はスタッフみんなで折った折り鶴をお客様にお渡ししました。何年か経って、その折り鶴が井筒屋の地下の売り場のディスプレイに使われているのを見た時は、大事にしていただけているんだと嬉しかったです。
100周年でも大きなことはできないかもしれませんが、なにか小林文具店らしいことができたらいいなと思っています」
文具や紙は身近なものでありながら、想いを込めることのできるもの。そうした商品を扱うこの店にも、人を想う気持ちが受け継がれています。
「文具を通じて、お客様の気持ちを大切な人に伝えるお手伝いができたら」
小林文具店 小林 慶昭

小林文具店
北九州市小倉北区京町1-5-7
TEL:093-521-0384
営業時間:10:00〜18:30
定休日:第1、3日曜
SNS:Facebook、Instagram
取材・文/写真:岩井紀子