小倉まちじゅうモール

小倉まちなかコラム

ブランド時計という“文化”を発信し、魚町銀天街の未来へと時を刻む【小林時計店】

魚町銀天街にある小林時計店は、市内でも随一の品揃えを誇る高級ブランド時計の正規取扱店です。創業は1932(昭和7)年。かつて小倉駅が現在の西小倉駅付近にあった時代に、室町に店を構えたのが始まりです。その後、小倉駅移転に合わせて現在の場所へと移り、長きにわたり高級時計と宝飾の専門店として親しまれています。

ラグジュアリーな店内で高級時計に触れる幸せ

親しみやすい小売店が並ぶ魚町商店街の中で、ひときわ明るく美しい佇まいが目を惹く小林時計店。ショーウィンドウの奥には、オメガやピアジェ、カルティエ、タグホイヤー、ブライトリングといった高級ブランド時計のコーナーが設けられています。正規取扱店ならではのラグジュアリー感と確かな品揃え、丁寧な接客は「小倉でブランド時計を買うなら小林時計店」と思われる由縁でもあります。

また、小倉本店の2軒隣にある魚町店では、グランドセイコーとカシオを二本柱に、国内ブランドの時計を取り扱っています。特にG-SHOCKに関しては、国内に7店舗しかないコンセプトショップ「EDGE(エッジ)」に位置付けられていて、G-SHOCKの世界観を存分に味わうことができます。入手困難な人気モデルを手に入れることもできる、マニアやコレクターにとっても見逃せないショップです。

代表取締役を務める小林 康弘さんに時計選びの極意を尋ねてみると、

「時計を選ぶときはまず、手に当ててみることですね。基本的にネットなどで情報を得て、そのビジュアルを頼りにご来店されると思うのですが、やはりサイズ感や実際の雰囲気は着けてみないとわからないものです。例えば『手首が太いからこれくらいのサイズ感があった方が似合う』といった先入観なしにいろいろと試してみれば、本当に似合う、気に入ったものをご購入いただけると思います」

決して安い買い物ではない高級時計だからこそ、自分自身へのご褒美だったり、なにかの節目や記念に買い求めたりする人も多いはず。時には高価な時計に見合うような自分に成長したいという思いを託す場合もあるでしょう。「すべてのお客様に満足していただきたい」という小林時計店の思いは、その接客にも表れています。

「確かな商品を扱っているからこそ、それを販売する人材教育には力を入れています。広い視野をもって、目の前のお客様のために何ができるかを常に考えてこそ私たちの存在意義がある。ブランドや商品の細かな知識はもちろんですが、どれだけ気遣いができるか、心を尽くせるかを意識しています」

スマートなスーツ姿で対応してくれるスタッフは本店と魚町店の2店だけでも20名。マンツーマンで接客するからこそ、豊富な知識と経験、そして心遣いは重要です。

「この業界は『これをください』と目標を定めて来店されることはまずなくて、『新作をちょっと見に来た』くらいのお客様がほとんど。コミュニケーションの中で何を求めていらっしゃったかを見極めながら接客するなかで、心を開いていただけたと思える瞬間があるんです。その瞬間が売り手としての醍醐味のひとつですね。

それでも私たちは売れた瞬間よりも、買ってくださったお客様が次に来店された時に『買ってよかったよ』と言ってくださった時が、本当の意味で『よかった!』と思える瞬間です。せっかく購入されたのに全然着けない、では意味がないと思っています」

高級時計の精巧なつくりや独自のデザインが好きで、新しい商品にも敏感な顧客は一定数いる腕時計の世界は、もはや一過性のブームではなく「文化」として定着している、と小林さんは話します。このカルチャーが広がることも願い、小林時計店では年に数回、キャンペーンやフェアも行っています。より多くの時計に出会え、触れられるこのチャンスで一生モノの一本に出会えるかもしれません。

祖父から祖母、母から息子へと歴史を刻んできた

小林さんの祖父が創業した小林時計店は、祖母、母の代を経て小林さんは4代目。かつては置き時計や掛け時計も取り扱う庶民的な時計店だったといいます。
祖母が店主を務めていた1981(昭和56)年には、隣店の火災の延焼により店舗が全焼。当時小学生だった小林さんは、学校から帰ってきて見た店も家もすべて燃え尽きた光景を今も鮮明に覚えていると言います。その後、防災機能を完備した現在のビルへと建て替えられました。

小林さんは大学を卒業後、東京で宝飾関連の企業を経て、2001年に地元に戻って小林時計店で働き始めます。

「子どもの頃から歯車やゼンマイといったパーツが身近に転がっていて、それを触って何かをつくったりするのが好きな子どもでした。時計はおもちゃのような存在だったし、僕が男だということもあり、やはり興味は宝飾品よりも時計に向いていました。僕が小倉に戻ってからは時計の売り上げがどんどん上がって、次第に品揃えは現在のような高級腕時計にシフトしていきました」

ちなみに小林さんの人生で最初の時計は、中学生の頃に買ってもらったセイコーのデジタル時計。ゴムバンドが切れても文字盤部分だけをポケットに入れ、大学時代まで大切に使っていたのだそう。2つ目の時計は大学の入学祝いに買ってもらったロンジンの腕時計。その時に初めて「この顔が好きだな」と自分で意識して選んだという思い出の1本です。

「実際に時計の世界がすごいなと思ったのは、就職する前に腕時計の本場と言われるスイスでの体験です。当時はフランクミュラーが出始めた頃で、すっかり高級時計の世界に感化されました。日本ではセイコーやシチズンが主流で、もちろん高級なんだけれど腕時計はまだ限りなく実用品としての位置付けでした。スイスの場合はまず展示している空間が違いましたね。きれいに設えられた場所に数本しか並んでいないし、時計自体も機械のどこにこだわっているか、文字盤1枚にどれだけの工程を経ているか、ケースの曲面をどうやって磨いているかというようなブランドのこだわりを知ることができるんです」

「工業製品と工芸品とがこれだけうまくシンクロする時計ってすごい!」というその時の感動は、小林さんの時計への認識を一転させるものでした。

「着けてなんぼ、使ってなんぼというよりも、人の心とか人生を豊かにするものだと改めて実感しました。高級腕時計に付加価値が付くことが一般的になった出来事として印象深いのは、1997年に木村拓哉さんがドラマで着用したロレックスの『エクスプローラーI』の大ブレイク。正規店でも品薄になり、高値で取引されるほどのブームとなりました。バブル崩壊後の日本に、ロレックスやフランクミュラーといった高級時計のブームがやってきて、そこからブランド時計の販売スタイルも変わってきました」

ブランドの力はまちの活気や質をも高める

国内でのブランド時計の売り方の変化に合わせて、小林時計店でもブランドごとの世界観を魅せる店づくりが進んでいきました。

「正直なところ、ブランドのリクエストに応えていくのは大変。ですが我々のやっていることは単なる時計店ではなくブランドビジネスだということ。どんな見せ方をしてその時計の魅力やこだわりを伝えていくか。特別な買い物体験をする場所だからこそ、ネットでは買えない商品を揃え、しっかりとした売り場をつくって丁寧に接客していくことが、正規取扱店としてより多くの商品を提供することにつながっていきます」

だからこそ利他の精神を重んじ、心が通じ合う接客のためにスタッフ育成やサービスの向上に力を注いでいるというのは納得です。

そうしたブランドビジネスに携わる小林さんには、魚町銀天街での店のあり方や商店街の未来についても持論があります。

「うちのようにきちんとした佇まいで高級ブランドを扱う店があることは、まちのクオリティという意味でも必要だと思うんです。やはり我々は“ショッピングストリート”として魚町が再び活気づくことを目指していかないといけないと思います。お店の雰囲気の変化を感じさせる見せ方をすれば、新しいものがあるというワクワク感が生まれます。常に何かしら新しいものを提案していかないといけないし、その目新しさが若者を惹きつける原動力になると思っています」

そのためにはそれなりのコストをかける必要があるため、どの店でもすぐに取り組めるものではないだろうと小林さんは話しますが、見栄えが変わる工夫をするだけでも視覚的な情報から人が集まるまちにできるし、よりよい接客を通じて深いコミュニケーションでお客と繋がることができると考えているそう。小林時計店が頻繁にディスプレイを変えているのも、そうした理由からなのです。

魚町銀天街で高級ブランド品を取り扱う小林時計店の使命を感じつつ、小倉のまちを引き上げ、活気づけたいと感じている小林さん。この4月には、天神の一等地、「福ビル」跡に開業する「ONE FUKUOKA BLDG.(ワンビル)」に、小倉・魚町、天神、大分に続く新たな店舗もオープンします。

「簡単に売れるものをではないからこそ、自分の接客の中でものが売れていく感動をどう味わうかを常に問いながら、やるからにはとことんやってみようという気持ちです。時計は文化と言いましたが、それは時計が緻密に計算された面も持ちながら、遊び心も表現されているという意味で道楽的な面も持ち合わせているからだと思うんです。そこが人の心を惹きつけるんでしょうね」

「高級時計は趣味の延長線上にある道楽。その楽しみ方を知ることが醍醐味」
小林時計店 小林 康弘

小林時計店
〈小倉本店〉北九州市小倉北区魚町1-3-6
〈魚町店〉北九州市小倉北区魚町1-3-3
TEL:093-521-0013
営業時間:10:30〜19:00
定休日:第3水曜
SNS: FacebookInstagramYouTubeLINE


取材・文/写真:岩井紀子

最近の投稿

アーカイブ