小倉まちじゅうモール

小倉まちなかコラム

100年を超えて愛される小倉銘菓を支える地元愛とまごころ【御菓子司 湖月堂 本店/喫茶去(きっさこ)】

JR小倉駅にほど近い京町駅前商店街にある湖月堂本店は1895(明治28)年に創業。当時は八幡製鐵所や炭鉱の開発で活気が溢れる時代。菓子職人だった創業者・小野順一郎さんがこの地に店を構えて、まもなく130年を迎えます。

かつては魚町銀天街との交差点(現在はマツモトキヨシのある角)までが湖月堂の店舗で、工場や従業員の寮も併設していたといいます。のちに作家となる松本清張が、店の角にあったショーウィンドウの飾りつけを一時期担当していたというのは有名な話。商工会議所主催のコンクールで一等を受賞するほどのセンスの持ち主だったようです。

▲創業当時の湖月堂(湖月堂HPより)
▲創業当時の湖月堂(湖月堂HPより)

小倉っ子に長年愛され続ける湖月堂。今回は改めてその魅力についてお話を伺いに湖月堂本店を訪ねました。

創業当初からのこだわりを守り抜く銘菓「栗饅頭」

▲艶やかな栗色に焼き上げられた栗饅頭(湖月堂提供)
▲艶やかな栗色に焼き上げられた栗饅頭(湖月堂提供)

湖月堂の代名詞でもある「栗饅頭」は、創業初期から続く商品。当時保存食として使用していた、乾燥させた栗を臼でつき、殻と渋皮を取り除いた「搗栗(かちぐり)」を饅頭の中に入れていました。「かち」の響きが「勝ち」に通じることから「勝栗」として縁起物とされ、当時から好評を博していました。

現在の栗饅頭は栗を甘露煮という方法で保存できるようになったため、刻んだ栗の甘露煮を餡で包んだしっとりとした味わい。贈答品としても親しまれている銘菓です。

「小判型の形や栗や餡などの素材へのこだわりは、今も守り続けています」と話してくれたのは、株式会社湖月堂の営業部長・佐藤 徹さん。栗饅頭に限らず、湖月堂のお菓子の素材には北海道産の小豆を使った餡や和三盆、佐賀県産ひよくもち米など、厳選した素材が使われています。

「湖月堂のお菓子は、餡からすべて自社で作っています。小豆の炊き具合や甘みの加減など、商品に合わせて微妙に変えてつくる餡は全部で100種類近くあります。社内には和菓子職人もおり、生菓子のほか、お彼岸や節句に合わせた商品などにも力を入れています。お菓子から季節を感じられるのも和菓子のよさですね」

ゆったりとした時間が流れる甘味処「喫茶去」

▲中庭を配した店内。各席にはコンセントも設置され、Wi-Fiも完備
▲中庭を配した店内。各席にはコンセントも設置され、Wi-Fiも完備

湖月堂本店だけのお楽しみといえば、店の奥にある甘味処・喫茶去の存在。商店街の喧騒を忘れるゆったりとした雰囲気の中で甘味や食事を楽しめるこの場所は、小倉のまちのなかでは唯一無二といえるでしょう。

開店前からお客が列をなす喫茶去の魅力は、その居心地のよさと同時に食事のおいしさでもあります。提供されるメニューは4階のパントリーで調理され、ほとんど加工品は使わず、一貫して手作りにこだわっています。

「今の時代はでき合いのものもたくさんあって、使おうと思えばなんだって揃いますけど、手作りにかなうものはないと思っています。材料もかなりいいものを使っていると自負しています。お刺身も新鮮なものしか出したくないので、その日に仕入れられなければ、そのメニューはお出しできないんです」

▲季節の素材をふんだんに使った一番人気の松花堂弁当(湖月堂Instagramより)
▲季節の素材をふんだんに使った一番人気の松花堂弁当(湖月堂Instagramより)

人気の「松花堂弁当」では、ふりかけでさえ魚をほぐして手作りするという徹底ぶり。その姿勢からは、「手作りのよさをお客様がいちばん分かってくださっているから」という作り手の思いが感じ取れます。

秋になると栗ご飯、敬老の日にはお赤飯など、季節の移ろいを感じさせるアレンジは菓子店の喫茶ならではの心づかい。甘味類も季節限定のメニュー開発に力を入れており、行くたびに新しい味に出会えるのも楽しみのひとつです。

最近ではSNSでの情報発信にも力を入れており、この夏は多彩なかき氷を目当てに訪れる若い世代のお客も多かったといいます。

「9月には、北九州芸術劇場とのコラボ企画で、松本潤さん、長澤まさみさん、永山瑛太さんが出演した舞台『正三角関係』に合わせて、三角形の白玉団子をつかった『白三角ぜんざい』を期間限定で提供しました。喫茶去に寄ってコラボメニューを食べてから劇場に向かう、というお客様の流れが生まれました。今後も機会があれば外部とのコラボにも挑戦していきたいですし、これまで以上にSNSを活用して喫茶去を知っていただく努力をしたいと思っています」

隠れ家的な空間でゆっくりと会話を楽しみながら、心のこもった食事や甘味を味わえる喫茶去は、小倉のまちにとってかけがえのない空間といえます。

創業の地である地元・小倉を大切にしていきたい

▲地元の人から旅行客までがひっきりなしに訪れる湖月堂本店
▲地元の人から旅行客までがひっきりなしに訪れる湖月堂本店

湖月堂本店では湖月堂で扱うお菓子を全種類取り揃え、その数は70種を超えるほど。風格がある落ち着いた店内では、小倉銘菓の代表とも言える栗饅頭をはじめ、もなかやおはぎ、さらには洋菓子をゆっくりと選ぶことができます。

また、人気の白玉ぜんざいやあんみつなとの甘味メニューを年中テイクアウトもできるのも本店ならでは。これらのお菓子のほとんどが、赤坂海岸にある自社工場でつくられています。

現在、湖月堂の店舗は北九州市内に26店、福岡市12店、山口県2店、大分県1店。小倉を代表するお菓子である湖月堂の栗饅頭が、福岡県を代表する銘菓としてもっと広まって欲しいですね、と問いかけると、意外な答えが返ってきました。

「もちろん、多くの方にご愛顧いただきたい気持ちはあります。ですが、“顔が見える商売”を大事にしたい、というのが私たちの想いです。ですからあまりキャパを広げ過ぎず、地元小倉をこれからも大切にしていきたいと思っています」

実際、湖月堂の接客はきめ細やかな心遣いが特徴。ギフト商品が多いこともあり、お客の想いを汲んで提案することも多く、店頭ではさまざまなコミュニケーションが生まれます。

「ベテランの従業員も多いため、お客様が『今日は〇〇さんいますか?』と贔屓の従業員を指名してくださることも。そう言っていただけるのは本当にありがたいことだと思います」

「商品がお客様の手元に届くまで心を配り、心を尽くす」そうした姿勢が、湖月堂の安心感、信頼感、心地よさをつくっているのではないでしょうか。

手を広げすぎずしっかりと足元を固めながら、でも同時に時代に合わせた新しい商品も提供していきたいという湖月堂。地元民としては福岡の菓子メーカとしての認知度が高まるのも嬉しいですが、やはり“小倉の湖月堂”であって欲しいと思わずにいられません。

「地元小倉を大切に。顔の見える商売を」
御菓子司 湖月堂 本店

御菓子司 湖月堂 本店
北九州市小倉北区魚町1-3-11
TEL:093-521-0753(喫茶も同じ)
営業時間:9:00〜19:00
喫茶:11:00〜20:00(OS19:15)
※3Fご予約のお客様は21:00まで
定休日:なし
SNS:InstagramFacebookX


取材・文/写真:岩井紀子

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