小倉まちじゅうモール

小倉まちなかコラム

どこか懐かしい家庭の味。素朴な料理がからだに、心に染みる【小倉おばん菜 玉乃井】


魚町サンロード商店街沿いにあるおばんざいの店、小倉おばん菜 玉乃井はあたたかな家庭料理を楽しめる店。カウンターには名物の「玉子焼」をはじめ煮物などが盛り付けられた大皿がずらりと並びます。新鮮な刺身やオリジナルの鍋料理などもあり、ひとりでふらっと立ち寄るのにも友人との食事や来客時の会食にも重宝される、気取らない雰囲気が魅力です。

ほっとするような優しい味わいのおばんざい

家庭の食卓にのぼるような気取らない惣菜を「おばんざい」と言いますが、洋食を食べることが増えた昨今では、昔ながらの和のおかずを味わう機会はだんだんと少なくなってきているように思います。

▲冷めてもおいしいからお土産にも人気の玉子焼
▲冷めてもおいしいからお土産にも人気の玉子焼

小倉おばん菜 玉乃井は、日本の食卓で長く愛されてきた素朴な惣菜が人気の店です。店主の島家 清さんと妻の真由美さんが夫婦で営んでいます。
季節の野菜に手間暇をかけてつくる定番のおかずに加え、新鮮な旬の魚の刺身や煮物、南蛮漬けなど日替わりのメニューが揃い、素朴ながらもこだわりの味を楽しむことができます。

中でも看板メニューのひとつであり、おみやげとしても人気の高い「玉子焼」は、清さんが大切にしているメニュのひとつだといいます。

「味付けからすべて、自分で何度も試食してこれだ! という配合で決めています。甘すぎず辛すぎずのバランスを調整して焼き方にもこだわっていて。だから調味料の分量を教えたとしても誰でも同じように焼けるかといったらそうはいかない。主人の味なんです」

そう語る妻の真由美さん。店でも玉子焼を焼けるのは数人しかおらず、家庭では再現できないふわっとした食感とほんのりとした甘味が口の中に広がります。お土産としての提供を始めたのもお客からの要望があったから。それだけ愛される逸品なのです。

玉子焼以外にも人気の定番メニューは挙げればきりがないほど。「やわらかごぼうの天ぷら」や「里いも揚げ田楽」は下茹でをした素材を薄味で柔らかく炊いたのちに油で揚げます。

「どちらももとはコースメニューの一品だったんですけど、お客様からのリクエストで、単品でもお出しするようになったメニューです。おいしく食べていただけるようにしっかりと手間をかけているのが、うちの料理の特徴のひとつですね」

和食の基本であるだしは、昆布、かつお、いりこを料理によって使い分けています。例えば「じゃがいもの煮っころがし」にはいりこだしを、「味噌汁」にはかつおだしをと、それぞれの味わいを引き立てるだしづかいも玉乃井の優しい味を生み出す大切な要素です。

旅館の板長時代のまかないがおばんざいの原点に

▲新鮮なフグを捌く手つきは流石の職人。店主の島家清さん
▲新鮮なフグを捌く手つきは流石の職人。店主の島家清さん

かつて、商工会館地下1Fにあった〈蓮理〉という店を覚えている方もいるでしょうか。おこぜやうつぼ料理で知られ、生簀で泳ぐ新鮮な魚を味わえる名店でした。芸能人も度々訪れるその店の次男として育った店主の清さんは、ホテルや旅館などで修行を積み、最終的には湯布院の旅館〈山灯館〉で板長を勤めていた人物です。

大勢の料理人たちが毎日たくさんの調理を作るなかで、捨てられる野菜くずを見ながら「もったいないな」と感じていたという清さん。それを使って自らまかない料理を作るようになったといいます。そのまかないが従業員たちに好評で、「こういう素朴なものでも喜んでもらえるんだ」と感じたことが、その後の清さんの料理につながっていきます。

旅館を退いた後は、両親の営む店と同じ〈蓮理〉の看板で、現在の店の近くで小さな店を始めました。真由美さんはエステの経営などを掛け持ちしながら店を手伝っていたのだそう。その後店名を玉乃井に変え、現在のかたちにつながっていきます。

▲最近は厨房を手伝うことが増えたが、やはり接客が大好きと話す真由美さん
▲最近は厨房を手伝うことが増えたが、やはり接客が大好きと話す真由美さん

「主人と京都に旅行に行った時にたまたま入ったお店がおばんざいの店で、カウンターの上に大皿が並んでいて『なんかうちに似ているな』と思ったことが、店名を〈おばん菜 玉乃井〉にしたきっかけですね。そのころは今ほど『おばんざい』という言葉も知られていなかった時期でした。

何種類かおかずがあれば、お客さんに好きなものを選んでもらえるし、食材も余さず使い切ればフードロスもないし、なにより、旅館の板長時代に素朴な料理が喜ばれたことを思い出しながら、メニューを増やしていきました」

今ある定番のおばんざいは13〜14品程度。そこにその日の仕入れによって変わるメニューも加わってきます。

素材を粗末にせず、ちゃんと残さず食べ尽くすことを意識しているからこそ、たとえば大根の皮も漬物にして余すことなく使い切ります。

「最近やけに漬物がよく出るなーと思っていたら、知らない間にメニューに『ママの手造り床漬け』という名前で載せられていて(笑)。恥ずかしいから『ママの』は消して欲しいんですけどね」

父母が営んでいた銘店「蓮理」の流れを継ぐ名物鍋も人気

▲おひとりさまでも安心なカウンターのほか、個室も充実
▲おひとりさまでも安心なカウンターのほか、個室も充実

おばんざいと並んで人気の高いのが鍋料理。玉乃井の「豚しゃぶ鍋」は、蓮理時代に人気だった鍋を再現した60年の歴史ある鍋。秘伝のかつおだしで味わう豚しゃぶは古くからのファンもいるほど。

また、清さんが考案した「三醬(さんじゃん)鍋」は韓国のテンジャン、コチュジャン、ヤンニンジャンに柳川のツル味噌をブレンドしたオリジナルのピリ辛鍋。肉団子や豚肉、たっぷりの野菜が入った鍋は、食欲を刺激して〆の麺まで余すことなく味わえます。このメニューも研究に研究を重ね、ここでしか味わえない和食の店らしい鍋です。

飾らないアットホームな雰囲気と豊富なおばんざいのおかげで、玉乃井はサラリーマンや若い女性がひとりで訪れることも多いそう。また遠方から来た出張客をもてなす場としてもよく使われていて、ぬか炊きやふぐのコースが好まれるそう。特にふぐコースについている「焼きふぐ」目当てでコースを頼むお客も多いのだとか。

そうしたお客とのちょっとした会話やコミュニケーションが「毎日楽しい」と話す真由美さん。

「3世代で通い続けてくれるお客様も多いんですよ。先日は中学生の時から来ていた女の子が、今は結婚して、中学生の子どもさんを連れてお見えになりました。もう、親戚のおばちゃんみたいな気持ちで嬉しくなりますね」

▲料理一筋の息子の忠史さんはこの春、独立を目指して店を旅立つ
▲料理一筋の息子の忠史さんはこの春、独立を目指して店を旅立つ

長らく玉乃井のカウンターに立ってきたのは息子の忠史さん。高校時代から店を手伝い、東京の調理師学校を卒業後、ずっとこの店を支えてきました。

「10年前に主人が大病をした時は、息子は本当によく店を守ってくれました。この春、独立を目指して彼は店を離れますが、やりたいように後押ししてあげたいですね。そのぶん玉乃井は、夫婦ふたりでこぢんまりとやっていける範囲にしていきたいと思っています。初心に戻って、たとえば厚揚げと菜っぱを炊いたものとか、ふろふき大根とか、昔つくっていたような素朴なメニューに戻していきたい。

今の時代は働いているお母さんも多いし、いわゆる昔の家庭料理ってつくる人が少なくなっているでしょ。だからちょっと手のかかる、昔ながらの家庭料理に戻していこうと思います」

「今や家庭では味わえない昔ながらの家庭料理でほっとするひとときを」
小倉おばん菜 玉乃井 島家 真由美 

小倉おばん菜 玉乃井
北九州市小倉北区魚町3-3-9
TEL:093-531-0601
営業時間:11:00〜14:00(LO13:45)/17:00〜22:00(LO20:45)、土曜17:00〜22:00(LO20:45)
定休日:日曜祝日(不定休あり)
席数:55席(個室あり)


取材・文/写真:岩井紀子

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