小倉まちじゅうモール

小倉まちなかコラム

神仏具を通じて、まちに貢献する新しいチャレンジを続ける【野上神仏具店】

魚町銀天街にある野上神仏具店は、仏壇、仏具、神具などを扱う専門店。店頭には「市内随一の品揃えと言ってもいいんじゃないかな」と3代目の野上哲平さん言うほど、種類豊富な線香がずらりと並んでいます。その奥には現代のライフスタイルに合ったコンパクトでモダンな仏壇から重厚な伝統仏壇までが取り揃えられています。

悲しみに寄り添って、満足できる選択を提案する

▲お客の声にじっくりと耳を傾ける野上さん
▲お客の声にじっくりと耳を傾ける野上さん

野上神仏具店のはじまりは1919(大正8)年。野上さんの曽祖父が木町で仏具などの蒔絵職人として営んでいたことがルーツです。結婚後夫婦で仏壇部品の組立てをはじめ、仏壇の製造販売を手がけるようになり、1937(昭和12)年には“小倉商人の憧れの地”であった魚町銀天街で野上佛具店としての営業を始めました。「小倉そごう」がオープンした際には、仏壇仏具専門店「蓮香堂のがみ」としても入店(2020年に撤退)。今も地域に根ざした神仏具店として親しまれています。 現在は野上さんの父母と3人の兄弟を中心に店を経営しています。野上さんは大学時代に学んだデザインの知識を活かし、2021(令和3)年には店舗を改装。ふと足を止め、ちょっと覗いてみたくなる入りやすい雰囲気の店にリニューアルしています。

▲かつての趣も残しつつ「動線や入りやすさを考えて照明デザインや陳列まで考えた」という店構え
▲かつての趣も残しつつ「動線や入りやすさを考えて照明デザインや陳列まで考えた」という店構え

「あなたの今日の仕事は、たったひとりでもよい。この店に買いに来てよかったと満足してくださるお客様をつくることです」という社訓を掲げる野上神仏具店。来られたお客一人ひとりに満足していただくことが大事だと考え、接客でも心がけていることがあるそうです。

「商売というのはもちろんお客様に喜んでもらうことがいちばんなんですけど、この業界って、喜んでもらう=笑う、ということだけではないんですよね。仏具や神具をお求めになるお客様は、例えばご親族がお亡くなりになったとか、暗い気持ちを抱えて来店されることが多い。ですからこの仕事はお客様の悲しみに向き合って、その方のために何をしてあげるのがいちばんいいのかを想像し、いろんな選択肢を提示しながら一緒に考えていく。そしてその方にとっていちばんいい答えを導き出してもらうことが大事だと思っているんです。最終的にお客様が『よかった』と満足してくださることが、喜んでいただけた、ということなんですよね」

亡くなった方の好みや性格、思い出話を聞きながら、さまざまな選択肢を提案して一緒に考えてくれる。悲しみの渦中にいる時、故人に思いを馳せる時に、親身になって寄り添ってもらえることはとても心強いものだと感じます。

小倉の竹を使ったオリジナル線香「小倉竹の香」

▲野上さん手作りの竹筒に収められた「小倉竹の香」。紙包の詰め替え用(左)も好評
▲野上さん手作りの竹筒に収められた「小倉竹の香」。紙包の詰め替え用(左)も好評

野上神仏具店から2023年にリリースされた「小倉竹の香」は、北九州の新しいお土産として好評のオリジナル線香です。2019年から毎年秋に行われている小倉城に3万個の竹灯篭を灯すイベント「小倉城竹あかり」で使用された小倉産の竹を粉末化して再利用している、まさにSDGsな商品です。竹林に佇んでいるかのような清々しい香りが魅力のこの商品は、北九州市のふるさと納税返礼品にも選ばれており、「嬉しいことに関東や関西からも注文をいただいています」と野上さんも手応えを感じています。

「小倉城竹あかり」のイベントへの協力を依頼され、本業を活かしながら貢献する方法を考えたという野上さんは、これまでになかった“竹そのもの”を素材として使う線香の開発を思いつきました。しかしこの線香が完成するまでには数々の困難があったといいます。

「竹の香りの線香はいろいろあるけど、実施に再利用された竹の粉を原料の30%まで入れている線香はほかにはありません。なぜなら竹の粉は線香の形状を作るときにボロボロと崩れやすく、成形するのがとても難しいんです。竹を粉末にしてくれる工場探しに始まり、粉末の粒子の大きさの調整し、線香の基材となる杉粉や椨皮粉(たぶこ/クスノキ科の木の樹皮を粉にしたもの)との配合を研究し、ようやく形になるまで1年がかかりました」

▲ 再利用された竹そのものを使った線香の商品化は業界でも初めてだという(野上さん提供)
▲再利用された竹そのものを使った線香の商品化は業界でも初めてだという(野上さん提供)

竹を線香として成形する目処が立つと、竹らしい香りの研究にさらに1年の月日を費やします。竹は粉状にすると香りが弱くなるのだそう。そのためさまざまな香料を調合して竹の香りを再現し、そのサンプルは100近くに及んだといいます。「火を点けた時に竹特有の青く、清々しい香りが漂うことにこだわり、ようやく納得する香りに辿り着けました」

最後にこだわったのは竹そのものを容器にすること。竹林整備のために伐採され、これまでは焼却処分されていた竹を容器として再利用しています。最初は竹筒の水分で線香が湿気たりと失敗の連続でしたが、竹をしっかりと乾燥させニスを塗って加工することで問題は解決。これらの作業もすべて野上さん自身が手がけています。

▲ものを作ることが好きだという野上さん。容器までとことん竹にこだわった(野上さん提供)
▲ものを作ることが好きだという野上さん。容器までとことん竹にこだわった(野上さん提供)

こうして3年を費やして生まれた新しい竹線香「小倉竹の香」は、「竹害を竹財に」というコンセプトをもつイベントの後押しになり、リサイクルというかたちで環境にもやさしく、そしてなにより仏具店という立場で地元を発信する新しい特産品となりました。野上さんの発想と行動力、粘り強い努力が結実した逸品です。

北九州のために新しいことに挑戦していきたい

「仏様や神様に触れる機会が多い商売なので、今の自分があるのは、仏様や神様、ご先祖、今までの道をつくってきてくれた人たちのおかげ。いろんな良いこと悪いことの歴史があった上で自分がいる、という考えに自然とになりますね」と野上さん。 先代である父や母、一緒に働く兄弟それぞれにリスペクトの気持ちを持ち、互いに得手不得手を補い合う姿勢の根底には、家族のために頑張りたいという思いがあるといいます。

▲仕事と小倉祇園太鼓が生き甲斐の父・嗣之さん。「のがみ太鼓塾」で小倉の文化を残す活動にも励む
▲仕事と小倉祇園太鼓が生き甲斐の父・嗣之さん。「のがみ太鼓塾」で小倉の文化を残す活動にも励む

「自分ひとりで今があるんじゃない。だったら僕はここで何ができるか、何をするべきか。そう考えた時に、次の世代へのレールを引くこと、次の人が挑戦できる環境づくりをしたいと思うんですよね。小倉竹の香をつくったことも、ひとつのモデルケースになればいい。それを見て『この街で挑戦したい』と思う人を増やすために、自分の後ろ姿を見せることが務めだと感じています。歴史を学ぶことは、事実を学ぶだけでなく、それがどう未来に繋がっていったのかを学ぶことでもありますから」

商店街で商売をするということは、いかに商品を売っていくかも大事。だけど仏壇仏具を売って終わりではなく、得意分野を利用してまち全体を盛り上げることを大事にしたいという野上さん。

目指しているのは「神仏具にまつわるものごとで、小倉のまちがさらに力を持って生き延び、魚町二丁目が主役になれるように。それは北九州をエリア全体で盛り上げることを目指すことでもある」と話します。

「自分の商売の知識・技術を使って人を集め、みんなで新しいものを作ること、まちに貢献していくことが、僕がやりたい挑戦です。おそらく僕が生涯かけてやるのはそのことだと思います」

いろんなきっかけがつながって、今の地点まで辿り着いたと話す野上さん。まだまだ成長している実感があるといいます。

「僕が開拓していくことが次の世代の挑戦のきっかけになれたらすごいと思うし、小さくてもいいのでこのまちで自分が生きた証を残したいと思います」

「歴史があって今がある。僕は僕のやり方で小倉のまちを盛り上げていく」
野上神仏具店 野上哲平

野上神仏具店
北九州市小倉北区魚町2-2-11
TEL:093-521-1005
営業時間:10:00〜18:00
定休日:なし(正月三が日・お盆後3日間)

取材・文/写真:岩井紀子

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