小倉まちじゅうモール

小倉まちなかコラム

▲スタジオ凛の店主井上竜次さん

オーダーメイドのコスプレ衣装・小道具がトータルでそろう専門店【文化雑貨スタジオ凛】

北九州モノレール平和通駅から小倉井筒屋、小倉城へと続くアーケード街・小倉魚町二番街は、昔から個性的な店が並ぶ通りという印象があります。JR小倉駅から南へと伸びる商業圏を東西へと広げる役割を担い、いち早く防犯カメラやフリーWi-Fiを整備し、観光客向けに小倉城への案内板を設置するなど、細やかなまちづくりも特徴的な地域です。

そんな小倉魚町二番街に面したビルの地下に、国内でも数少ないというコスプレグッズの専門店があります。

公務員から一転、サブカルチャーの世界へ

「文化雑貨 スタジオ凛」は、2011年から営業するコスプレ衣装、ウィッグ、小道具などの専門店です。かつてはアンダーグラウンドなカルチャーのひとつだったコスプレですが、今では国内コスプレイヤー人口は34万人とも言われるほど、その市場は成長を続けています。日本のコスプレは海外でも人気が高く、「クールジャパン」として受け入れられています。

▲コスプレ専用のウィッグの品揃えもすごい
▲コスプレ専用のウィッグの品揃えもすごい

店主の井上竜次さんは店舗での商品販売のほか、小物の制作やメイク指導、撮影から配信まで手掛けるマルチプレイヤーです。3ヶ月に1度程度の頻度でコスプレイベントを開催するなど、コスプレマニアのニーズに応えながら、毎年秋に開催される「北九州ポップカルチャーフェスティバル」でのメイク教室なども行なっています。

▲血糊やファンデーション、タトゥーシール、カラーコンタクトなどもそろう
▲血糊やファンデーション、タトゥーシール、カラーコンタクトなどもそろう

元々コスプレには興味がなかった井上さんでしたが、公務員を辞めて新しいことを始めたいと考え、たまたまこの場所を見つけたことが、今の店を開くきっかけだったといいます。

▲階段を降りるとマニア垂涎の空間が…
▲階段を降りるとマニア垂涎の空間が…

「人通りの多い魚町の商店街沿いから地下に降りていく、まさにアンダーグラウンドな雰囲気がいいなと思って、場所ありきで店を始めることに決めました。ものを作るのが好きだったし、北九州は映画のまちと言われていることもあって、映画の小道具を作ってみようかと知人に相談すると、一緒にコスプレグッズも販売することをアドバイスされました。

当時はボーカロイドブームの先駆けとなった「初音ミク」の全盛期だったので、オープン当初から大きな反響がありましたね。テンションが上がったお客さんが毎日1人は階段から転げ落ちてくるほどでしたよ」

某テーマパークからも頼られる、細やかな衣装づくり

▲既製品のコスチュームもあるが、ほとんどのお客はオーダー注文をするという
▲既製品のコスチュームもあるが、ほとんどのお客はオーダー注文をするという

当初は既製品の衣装を仕入れて販売していましたが、時代と共にコスプレイヤーのニーズも多角化していき、オーダーメイドでの衣装製作を始めました。

「東京で衣装のオーダーをすると15万円くらいすると聞きますが、うちでは最大3万円と決めています。中国の工場と直接取引しているのでその価格でもかなり完成度の高いものが作れるんです。お客さんも1度しか着ないこともあるので、コストをかけずにできるのは喜ばれています」と井上さん。

イメージの写真やイラストを元に工場に発注し、細かい装飾などは井上さん自ら3Dプリンターで立体パーツを作ることもあるのだそう。「より豪華に、リアルに仕上げることを心がけている」といいます。また、和柄の生地など現地で調達できないものは、柄をデータ化して生地に直接プリントして再現するなど、要望に合わせてひと手間かけることも欠かしません。 それらも含めて3万円でオーダーできるとあれば、素人目にもかなりの破格値だと感じます。

▲警察官や弁護士用のバッジのほか、モデルガンなどのコーナもある
▲警察官や弁護士用のバッジのほか、モデルガンなどのコーナもある

「5年くらい前に某有名テーマパークから『バイオハザードの衣装がどうしても間に合わないので、1週間で作れませんか?』と直接電話がありました。そんなところから依頼があるとは思ってもみなかったので驚きましたが、なんとかギリギリ間に合わせて15着納品しましたね。ほかにも、よく小倉でもロケをしている映画制作会社から『警察手帳が足りないので20個欲しいんです』っていう依頼があったりしましたよ」

ロケ地になることも多い北九州ですが、思わぬ形で映画のまちに貢献している店があったことに驚きました。

コスプレの楽しみ方が多様化する時代。だからこそ、伝えたいこと

▲スタジオ凛の店主井上竜次さん
▲スタジオ凛の店主井上竜次さん

そもそもコスプレ衣装は通信販売で取引されることがほとんどで、スタジオ凛のようにオーダーメイドできるのは珍しいのだそう。さらに、ひとつの店で衣裳から小道具、メイクまで全身コーディネートできるのもこの店ならではの特徴です。 「たとえば東京の秋葉原だと、衣装の店、ウィッグの店、刀の店、モデルガンの店という具合にそれぞれが専門店なので、欲しいものをそろえるのが大変なんです。その点、うちの店であれば『このキャラクターが持っているような刀が欲しい』と言ってもらえればどんなものが合うかも分かりますし、1ヶ所でトータルコーディネートできることが強みですね」

▲刀やグローブなどの小物類も充実
▲刀やグローブなどの小物類も充実

これまでは漫画やアニメのキャラクターになりきるコスプレが主流でしたが、最近ではそれぞれの発想でオリジナルコスプレを求める人が増えてきたといいます。その背景にはSNSの発達が大きく関係しているようです。

「みんなが自由に情報発信できるようになってコスプレニーズも多様化してきました。ボカロ(ボーカロイド)やVチューバーのコスプレを楽しむ人、そのコスプレで「踊ってみた」動画をTikTokに上げる人。みんな個性も色々ですね」

もはやオタク文化の域を超え、日本独自の文化として市民権を得た感のあるコスプレ。とはいえ、マニアでない人にとってはまだまだ未知の領域です。いちばんポピュラーなコスプレといえばハロウィンが思い浮かぶのではないでしょうか。

「ひとむかし前は親に内緒でコスプレをする時代だったけど、今は家族で楽しむ時代。コスプレ自体のイメージが変わってきて、『クールジャパン』のように文化として見られるようになりました。その一方で、ハロウィンに大騒ぎしてしまう人たちがいたりするのも事実。コスプレはマナーを持って楽しむものだよ、ということも私たちが発信していかないといけないと思っています」 井上さんは、数年前から店がある小倉魚町二番街商店街の理事も務めています。その器用さを活かして、商店街のホームページの制作から運営、Twitterの更新、販促物のデザインなども娘さんと一緒に担当していろのだそう。

▲小倉城のイラストをあしらった二番街のノベルティや旗も作っている
▲小倉城のイラストをあしらった二番街のノベルティや旗も作っている

「商店街でコスプレイヤーが撮影したいというニーズもあるんです。せっかく小倉城に続く通りで店をやらせてもらっているので、この場所でもっと面白いことができないかなと思っています。安心・安全で賑わうまちにすることで、コスプレイヤーが小倉でもっと楽しんでくれたらいいと思いますね。

「人だけがなれないものになれる。変身願望をもっと引き出したい」
文化雑貨 スタジオ凛 井上竜次

●文化雑貨 スタジオ凛
北九州市小倉北区魚町2-2-2 B1
TEL:093-383-7469
営業時間:14:00〜18:00(土日、祝は12:00〜)
定休日:火曜
HP:https://studio-rin.wixsite.com/studio-rin

●小倉魚町二番街HP:https://www.kou2bangai.com/

取材・文/写真:岩井紀子

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