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ハンディキャップを持つ人との接点をつくる障害者自立支援ショップ【一丁目の元気】

京町銀天街の西端にある「一丁目の元気」。一見、ハンドメイド作家の作品を集めたセレクトショップのようにも見えますが、店内に並ぶ商品は主に市内の障害福祉サービス事業所に通う障害を持つ人たちがつくったものです。

2008年に市の補助事業としてオープン以来、市内の障害者自立支援を目的に運営されているこの店の店長・柳井美子さんを訪ね、お話を伺いました。

「障害者」と「社会」とのつながりをつくる場所

▲カフェも併設した店内
▲カフェも併設した店内

店内に入ってまず驚かされたのが、陳列されている商品の数と種類の多さ。小さなブローチから封筒や便箋といった紙製品、バッグやポーチなどの布製品、クッキーなどの焼き菓子まで。そのほとんどが北九州市内にある障害福祉サービス事業所や小規模作業所の通所者によってつくられたものです。

訪れるお客は、障害者の自立支援ショップと知って訪れる人いれば、手作り雑貨の作家さんの作品を置いているお店と思って来る人も多いといいます。

「私はそれでいいと思っているんです。福祉色を強くするのではなく、地域に溶け込むようなお店で、面白いものがあったり、かわいいものがあったり、商品としてきちっと成り立っているものを売っているということが大切だと思っています」と店長の柳井さん。

確かに“商店街の一角にあるおしゃれな店”という入りやすさは、障害のある方との距離を縮めてくれます。時には商品を作った本人や家族が店を訪れることもあり、「みなさん嬉しそうな顔をしている」といいます。

さらに支援学校の生徒が見学に訪れ、「将来こんなものづくりをしてみたい」と夢を持ったり、事業所の利用を検討している障害者やその家族が訪れたりすることもあるのだそう。

「障害者支援」というキーワードを軸にしながら、さまざまな角度に向けで開かれ、あらゆる人を受け入れてくれる店だといえそうです。

柳井さんは「カフェコーナーもあるので、人の目を気にせずに足を運んで欲しいです。どんな方でも安心して立ち寄ってもらえる場所でありたいですね」と穏やかに話してくれました。

以前は、障害者の授産品を販売する場所は、主にバザーなどにでしたが、この店を含め販売する場所が増えてきたことで、商品を目にしてもらえる機会が増え、売上は工賃アップにもつながっていきます。なにより、自分がつくったものが陳列され、売れることで、障害を持つ人の仕事に対するモチベーションが上がることは、大きな効果のひとつ。 そのために、店と事業所が連携して、作り手には商品づくりに専念できる環境づくりにも気を配っているそうです。

作り手を知ることで商品の魅力がさらに増す

▲かわいらしいイラストやデザインを活かしたブローチも人気商品のひとつ
▲かわいらしいイラストやデザインを活かしたブローチも人気商品のひとつ

店内に並ぶ商品は、手仕事の温かみを感じさせるものから、クォリティの高い商品までと幅広い。柳井さんがどんな作り手が作っているのか、一つひとつ紹介をしてくれました。

「いろんな事業所があり、さまざまな商品があるのですが、中には長い間時間をかけて商品として確立してきたものもあります。たとえばキッチンで使うターナーなどの木工製品。障害の重い方なのに、木材の切り出しから削り、仕上げまで全部利用者さんが作られていて、すごく人気です。競馬が好きな人が描いた味のある馬のイラストのクリアファイルがあったり、40代の男性が黙々と作っているヨーヨーキルトを鍋敷きやバッグにアレンジしたものもあります。聴覚障害の方々がいる事業所さんでは布製品を作っていて、お針子さんとして仕事されていた方ばかりなので商品としてもとても質が高いんです。とてもバザーで数百円で売るようなものではないですね」と柳井さん。

作り手は聴覚、視覚、知的、精神など、障害の種類も年齢もいろいろ。それぞれの感性や特性が活かされた商品の背景を知ることで、気に入った商品がより価値あるものとして見えてくるのは、工芸品などにも通ずるところがあります。障害の有無は関係なく、ほかにはない1点ものとしてお気に入りの商品に出会えるかもしれません。

授産品=安い、という時代ではない。そのために努力していること

ひと昔前の授産品というと、商品の質を求めるというよりはボランティア精神で購入するというイメージを持っていた筆者ですが、この店の商品は純粋に「かわいい」「欲しい」「おいしそう」という購入欲求をかき立ててくれる、という印象を持ちました。

実際、一丁目の元気では商品としてのクオリティを高めるための工夫も行っています。

約30〜40の事業所でつくられる商品は、この店で売るために企画されたものや消費者のニーズを伝えて、一緒に商品づくりをしているものもあるのだそう。

「ちゃんとした対価をもらえる商品づくり、ただ売るだけではなく、どうすれば売れるかという提案もできることが、この店がある意味だと思っています。

今は『障害のある人がつくったものだから安い』という時代ではなくて、つくる人も買う人も意識が上がってきています。ちゃんと価値を見出して、適正な価格で買ってもらうことで、よりよいものができると思いますね。そのために、つくる方にも努力をしてもらっていますし、時にはこちらから『もっと値段を上げてください』ということもあります」

そんな柳井さんは、授産品=安いものというイメージを払拭していきたいと語ります。

「障害者にとっては、商品を購入してもらえることが支援になります。自分がつくったものが売れてお金になることだけでなく、それを誰かが使ってくれているという事実が、社会とつながるきっかけになるので。だからこそ前向きにがんばろうと思ってもらえると思うんです。またお客さまにとっては、自分がいいと思ったものを買ってウキウキしながら、同時に誰かの役にも立っているっていうのが、ちょっと素敵なことだなと思いますね」

障害者を身近に感じ、受け入れられる社会に

▲点字新聞を使ったポチ袋やイラストを活かしたステーショナリーも
▲点字新聞を使ったポチ袋やイラストを活かしたステーショナリーも

北九州市が発表している調査資料によると、令和2年4月1日現在の推計人口に対して身体的障害のある人は5.1%、知的障害のある人は1.2%、精神的障害のある人は1.7%、難病患者は0.8%だといいます。[参考:北九州市障害者支援計画(平成30年度から令和5年度)]

身近に障害を持つ人がいない、接点がないという人も多いのかもしれません。

一丁目の元気は、アンテナショップとして、まずは障害者を知ってもらうこと、そのきっかけになる場所として運営をしています。同じような公的施設は全国的にも少ないのだそう。

「やっぱり知らないって怖いんですよね。たとえば目が見えない人にどう声をかけたらいいかわからないとか、自閉症の人が飛んだり跳ねたりするのは、無意識でやっていることだから止められないんだとか。聞かないとわからないけど聞けないし、聞いていいのかもわからないですよね。知るって大事なキーワードで、理解の第一歩なんです。そういう人がいるよっていうことを知ってもらうことはすごく重要だと思っています」

販売する商品を通じて、障害のある人を身近な存在として認識してもらう。そんな「交差点」のような場所として気軽に立ち寄ってもらいたいと柳井さんはいいます。

マイノリティとみなされがちな障害者ですが、ハンディキャップの有無に関わらず、人はそれぞれに個性があって、その多様性をみんなが受け入れ、だれもが生きやすい社会にしていこうというのが今の時代です。

「障害者の〜」という先入観なく、純粋に商品のよさを通じて多様性・個性に触れる機会を持てるのが、「一丁目の元気」という場所なのではないか。商品を手に取り、作り手の姿を想像しながら、そんなことを思った取材でした。

「障害のこと、障害を持つ人のことを少しでも知って、接点を持ってもらえたら嬉しい」
一丁目の元気 柳井美子

障害者自立支援ショップ 一丁目の元気

障害者自立支援ショップ 一丁目の元気

北九州市小倉北区京町1-6-1
TEL:093-383-6061
営業時間:11:00〜17:00
定休日:日・月曜
Facebook:https://www.facebook.com/1genki/
Instagram:https://www.instagram.com/p/CrXDyQ1vciC/

取材・写真/岩井紀子

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