小倉駅と魚町銀天街とを繋ぐ京町駅前商店街は小倉のまちでも一二を争う人通りの多い通り。そこに建つメンズカジュアル衣料専門店MEN’S KURAYA(クラヤ)は1954(昭和29)年にこの地でオーダーメイドのスーツを販売する紳士服店として始まり、現在は高級紳士カジュアル衣料や服飾雑貨を扱う店として営業しています。「年齢で服を選ぶのではなく、おじさんになってもこだわりを持ったおしゃれを楽しんで欲しい」と質の高い国産メーカーの紳士服を取り揃えています。
国内でも少なくなった紳士カジュアルの専門店

全国的にも紳士カジュアル衣料を取り扱う路面店が姿を消す中、3代目となる店主の久家(くげ)篤志さんの祖父の時代から続くこの店は、今年で創業71年となる紳士服の老舗。久家さんは、大学を卒業後アパレルーメーカーで働いたのち、26歳からこの店に立っています。
取り扱うのは国内メーカーのブランド商品。質の高い生地と確かな縫製が特徴で、着心地やデザインの良さから地元客だけでなく、大分や山口など遠方から足を運ぶ常連客もいるほどです。
「お客様の年齢層が40代〜80代くらいのアダルト層なので、あまり奇抜すぎない色柄、デザインのものを中心に取り揃えています。最近の方はどうしても黒や紺など、無難なものを選ぶ方が多いですが、そればかりではおもしろくないですよね。うちの商品はパッと見派手でも品があるので、『たまにはこんな色も着たいね』っていう気持ちでチャレンジしていただきやすいと思います。洋服選びはやっぱり楽しくないとダメだと思っています」

お客の多くは旅行や親戚の集まり、孫とのお出かけなど、日常の中でも特別なシーンの装いとしてクラヤの服を愛用しているといいます。女性客も多く、「記念撮影があるから旦那さんにいい格好をしていて欲しいから」という声も多いそう。
「最近では紳士服を扱う店が減ってしまって、ファストファッションで済ませたりする方も多いですよね。中にはネットで購入される方もいるかもしれませんが、それなりに金額のする質の良いものを選ぶのであれば、やっぱり直接見て触って、色々試着して、似合うものを見てつけて着ていただきたいですね。自分もそうですが、やっぱりいいものを着ていると背筋が伸びて目線が上がるというか、どこに出ても恥ずかしくないという気持ちになるもの。気分もいいですし、質の良い高い服を着ている満足感もある。自信を持ってお出かけできるのではないでしょうか」

店内にはセール品も常に揃えているので、見るだけでもいいので、気軽に立ち寄って欲しいと久家さん。中にはお向かいのパチンコ店で臨時収入があったからと来店されるお客もいるそう。
「決してお安いブランドではないので、少しでも手を伸ばしやすいようにセール品も常にあるように心がけています。生地の織りに特徴があったり、デニムでも薄地で着心地がよかったり、長く着続けていただけるものばかりなので、気に入って再来店してくださる方も多いです」
仕立てのへのこだわりは祖父の呉服店が原点

クラヤのこだわりは、生地が上質で縫製技術の高い、国内メーカーの商品を提供すること。こうした質の高さへのこだわりは、この店の歴史も関係しています。
飯塚で呉服店を営んでいた祖父が現在の店舗がある小倉にスーツのオーダーメイドの店を出したのがクラヤの始まり。1階には生地を並べ、2階で採寸、3階で職人が縫製するという、すべてをこの店で責任を持って仕立てていたのは、住み込みのお針子さんを抱えていた祖父の呉服店でのやり方をそのまま洋装に持ち込んだもの。クラヤでも腕利きの職人を抱え、スーツを仕立てていたといいます。
「父の時代にスーツのオーダーをやめたのは、職人さんが高齢となり、後を引き継げる人材がいなかったから。仕立てを外注に出すこともできたと思いますが、最後までうちで責任を持って作ったものをお渡ししたかったのは父のこだわりだったと思います」

スーツのオーダーをやめ、カジュアル衣料に舵を切ってもそのこだわりを持ち続け、生地の質、縫製、デザインともに質の高い確かなブランドだけを扱ってきました。時代もカジュアルウエアへと移ってきたこともあり、特にバブル期は多くのお客で賑わったといいます。

久家さんも父から受け継いだ店のこだわりを引き継いで、確かな商品だけをセレクトしています。
「国内でも紳士服のメーカー自体が少なくなってきましたが、日本製の商品にこだわっているメーカーの商品を扱っています。同じTシャツでもやはり着心地も違いますし、洗っても型崩れしない。いいものだからこその良さがあります」
おしゃれに年齢制限はない。好きな服を自由に着て欲しい

歳を重ねると、どんな服が似合うか、何を着たらいいのかわからなくなることもあるもの。訪れたお客に「この店は何歳くらいの人向けの服を置いているのか」と聞かれることもあるという久家さんは、「おしゃれに年齢制限はない」と断言します。
「ファッションはまずは自分が楽しんでこそ。気に入った服を着ていれば自然と気分も上がります。まちでおしゃれな装いのおじいちゃんを見かけると思わず目が行くように、歳を重ねてもおしゃれを楽しんでいる人は、たとえ人混みの中にいても自然と目を惹くでしょう。『もう若くないから派手な色はちょっと…』なんて年齢で服を選ぶのではなく、好きなものを好きに着たらいいんです。それがかっこいいおじさんだと思います。案外周りの人もその姿を見ていますからね」

「車だってたくさんのメーカーや車種があるのに、わざわざ『もう俺はどんな車でもいい、走ればいいんだ』って決めつける必要はないじゃないですか。洋服も同じで、安いファストファッションでいいと決めつけずに、いろんな種類の洋服がある中から、せっかくならこだわりを持って好きなものを選んでもらいたいと思います」
紳士カジュアルを取り扱う専門店は、ニーズはあるはずなのに全国的に見ても希少になってきているといいますが、久家さんはこれからも路線は変えずにこの店を続けていくと話します。
「遠方から訪れたお客さんに『北九州にこんな店があるのは珍しい。これからも頑張ってね』と励まされることも多いんです。いずれはなくなっていく業種なんだとは思いますが、それでもギリギリまでおじさんたちが楽しく服を買う場所を守っていきたいと思っています」
「新しい変化よりも、ずっと変わらずここにある店でありたい」
MEN’S KURAYA 店主 久家 篤志

MEN’S KURAYA
北九州市小倉北区京町2-6-19
TEL:093-521-1945
営業時間:10:00〜18:30
定休日:月2回水曜
取材・文/写真:岩井紀子