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小倉まちなかコラム

駅のホームでお馴染みの味が、旦過市場に仲間入り【かしわうどん 旦過市場店】

2度の大規模火災に遭いながらも、復興を目指して日々奮闘する旦過市場。市場へ足を運んだり、報道などで目にしたりするたびに、「応援したい!がんばって!」という気持ちになる人も多いのではないでしょうか。 今回訪ねた「かしわうどん」の店主・楠見貴弘さんも「旦過市場のために何か手伝いたい」と思った人のひとり。JR小倉駅のホームでしか食べられなかった北九州のソウルフード「かしわうどん」を旦過市場へと持ってきた原動力はなんだったのか。偶然と必然によって旦過に呼び寄せられた楠見さんに話を伺いました。

「何かやろう」と帰郷した日が、1度目の火災の日だった

かしわうどん 旦過市場店

2022年11月に「かしわうどん」を旦過市場にオープンさせた楠見さんは北九州出身。若い頃は東京で役者として活動し、帰郷後は紺屋町で「パーキングメーター」というライブハウスバーを経営していたという経歴の持ち主です。その後、バンド仲間のつながりで沖縄へと移り住み、石垣島でステーキハウスを営んでいたそうですが、「沖縄での暮らしも12年となり、一区切りをつけて地元北九州で新しいことを始めようと思って」北九州に帰ってきた日が2022年4月19日。ちょうど旦過市場の1度目の火災の日だったといいます。

「旦過市場は、紺屋町でバーをやっていたときに毎日おつまみを買いに通っていた場所だったので『うそだろう』という思いでしたね。じつは沖縄に行く前に、新旦過横丁あたりで店をすることも考えていたんです。あの時の選択が違っていれば、もしかすると火災の当事者だったかもしれない。そう思うと他人事じゃない気がして」と楠見さん。

そして8月10日、旦過市場を2度目の火災が襲いました。馴染みのある市場を襲った2度の火災を目の当たりにし、楠見さんは「旦過市場のために、なにか手伝えることはないだろうか」と考えるようになったといいます。

「お金だけ寄付するのではなくて、旦過が盛り上がるきっかけを作って復興のお手伝いがしたかったんです。共通の友人の応援もあって、北九州駅弁の社長に『かしわうどん』の店をやりたい!と話に行き、快諾してもらいました」

かしわうどん×旦過市場 市民に馴染みのある組み合わせ

▲もちろん、安い・早い・うまいのも駅のホームと同じ

北九州で「かしわうどん」といえば、JR小倉駅のホームでお馴染みの北九州名物のひとつ。ソウルフードとしても愛されるこのうどんの特徴は、ゆで置きした麺を使った柔らかくもちもちとした北九州ならではの食感と、カツオと昆布の旨味を引き出したつゆ、トッピングのかしわ(鶏肉)の甘辛さの絶妙なハーモニーでしょう。小倉駅以外で食べられるのはこの店だけで、材料も作り方も駅のホームとまったく同じ。駅とは違う点は、座って食べられることと、ネギだけは旦過市場で仕入れていることだけだそう。

▲かしわうどんを座って食べられるのは、駅のホームでテイクアウトができていた時代以来!?
▲かしわうどんを座って食べられるのは、駅のホームでテイクアウトができていた時代以来!?

楠見さんは、かつて経営を学んだ経験から、“3つ以上の要素があれば人は動く”と考えているといいます。旦過市場には「新鮮な食材」があって、昔ながらの市場の「レトロな雰囲気」もある。そこに「かしわうどん」という新たな要素を加えることで、足を運ぶきっかけは増えると読んだのだそう。

「かしわうどんは地元の人にとって馴染みがあるので、きっと喜んでもらえると思いました。抜群の知名度に加え、食べに来てくれる人はきっと『旦過市場の応援』という意味も重ねてくれると思うんです。旦過市場が本来持っている要素にこのふたつを掛け合わせることで、みんなにとっていい結果になるんじゃないかな」と語る楠見さん。

実際、「かしわうどんができたと聞いたから久々に旦過に来たよ」というお客も多いそう。馴染みの味が旦過市場に足を運ぶきっかけになってくれればという楠見さんの願いは確実に届いているようです。

コミュニケーション力で、市場の人にも愛される存在に

▲人と人との温かいつながりが「なんか昭和っぽくていい」という楠見さん
▲人と人との温かいつながりが「なんか昭和っぽくていい」という楠見さん

旦過への熱い思いを持った楠見さんですが「最初は市場に馴染めるかどうか不安があった」といいます。それでも、空き店舗を自分たちで改装して店をオープンしてみると、買い物に来ていた時と変わらず、気さくなまちだと感じたのだそう。市場内の人にも「さっと食べられてちょうどいい」と喜ばれていて、「近所の店から注文が入ると、店で食べているお客さんに『ちょっと留守番しててね』って頼んで配達に行ったりします」と笑います。

そんなお客さんと絶妙な関係を築けているのは、楠見さんらしい声かけに理由があると感じた、こんなシーンをご紹介します。

お客さん:「うどんを一杯」
楠見さん:「いなりはよかったですかー?」
お客さん:「じゃあ、ひとつ」
楠見さん:「その『じゃあ』を待ってましたっ!」
お客さん:「笑」

最後のひと言が言えるかどうかで、お客さんとの距離は違ってくるのは一目瞭然。 沖縄で店をやっていた時から「キッチンはひと手間、ホールはひと声」をモットーにしてきたという楠見さんらしく、マニュアルだけではない生きたコミュニケーションを大切にしているところは旦過市場に通じるものだと感じました。

今後、旦過市場の再整備が始まるまでは、この場所でかしわうどんを続けていきたいといいます。

「僕自身も高校時代から駅で食べていたから、自信を持って提供できるし、間違いなく喜んでもらえると思っています。ここに来てお腹を満たして、旦過でお買い物も楽しんでもらうことが、旦過市場復興の1番の応援になると思います」

「メインでなく、ついでの店として、旦過市場を応援していきたい」
かしわうどん 旦過市場店 楠見貴弘

かしわうどん 旦過市場店 楠見貴弘さん

かしわうどん 旦過市場店
北九州市小倉北区魚町4-1-21
TEL:093-533-0111
営業時間:9:00〜売り切れまで
定休日:日曜(祝日は営業)

取材/撮影:岩井紀子

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