小倉井筒屋の向かいにあるビルの1、2階に店を構える理美容室Hair Salon YOKOTE。実はこの店、各地のスペシャリストの元で腕を磨き、日本代表として世界大会での入賞経験を持つ人物がオーナーを務める、知る人ぞ知るサロンなのです。
蝶ネクタイがトレードマークの横手哲也さんは、トップクラスの技を身につけるために修行を積み、数々のコンクールに出場。輝かしい成績を納めてきました。26歳の時に帰郷し、父親が1973(昭和48)年から営んできたこの店の後を継ぎます。以来、お客から信頼される腕前を発揮しながら、リラックスできるひとときを提供しています。
負けん気の強さでトップを目指した青春時代
父親が理容室をやっていたこともあり、子どもの頃から髪をいじることが好きだったという横手さん。中学時代には友人の髪を切ったり刈ってあげたりするような少年だったといいます。とはいえその頃の夢は意外にもトラック運転手。映画「トラック野郎」の世界に憧れ、「自由そうでいいな、かっこいいな」と思っていたのだとか。それでも注目するのはやはり、そこに出てくる俳優陣の髪型でした。「主演の菅原文太さんを見て髪型に興味を持ったというのはありますね」と横手さん。理容師の道へと進んだのは自然の流れでした。
理美容学校を卒業した横手さんは、地元ではなくまず大阪のサロンに就職します。競技会のレディース部門でチャンピオンを取った先生の元で勉強をするためでした。大阪での修行を経て、次に横手さんが向かったのは島根。メンズのアイロンパーマのチャンピオンを取った先生のサロンで修行に励みます。
「この業界はコンクール、競技会がたくさんあり、とにかくコンクールで優勝したいと思っていました。優勝を目指すなら上手い先生のところで勉強したほうが早いじゃないですか。トップにこだわる気持ちはやっぱり負けん気でしょうね。思い起こせば、子どもの頃から負けん気は強かったかもしれません。少年野球や高校時代まで続けた少林寺拳法、ボクシングでも、とにかく1番になりたいと思って一日中練習していましたからね」
大阪、島根での修行を経て、26歳で小倉に戻り父親の店で働くようになってからは、それまでの努力の成果が花開いていきます。1998(平成10)年の福岡県理容競技大会で準優勝し、その後の全国大会でも準優勝。世界大会に出場するナショナルチームに招集されます。1999(平成11)年にオランダで行われたコンペティションでは総合5位、同年のパリコンペティションのフィンガースタイルで2位を獲得。2000(平成12)年には、ドイツで行われた世界大会で銅メダル獲得と、華々しい結果を納めました。
「19歳から29歳まではコンクールにすべてを賭けていましたね。青春のすべてがそこにあります」
現在は講師として若い世代、そして年配に向けても、今の技術を伝える橋渡し的な役割を担って活動しています。
お客に鍛えられ、育てられて今がある
世界で認められた腕を持ってHair Salon YOKOTEでの仕事に力を入れ始める横手さん。中でも得意なのがアイロンパーマだそう。その奥の深さに面白さがあるといいます。
「当時アイロンは花形のスタイルで、“アイロンの技術でビルが建つ”といわれるほど。今ではパーマやカラーが主流になってきましたが、当時はアイロンでカチッと仕上げるスタイルが人気でしたね。短髪でも手入れしやすいですしね」
時代によって流行が変わっていく中で、理容師の仕事は常に勉強だといいます。技術はもちろんですが、例えばコンビニにある整髪料をすべて購入してその違いを研究したり、ヘア雑誌を買い集めては流行りのスタイルを勉強したり。
「とにかく自分から情報を取りに行かないといけない。そうしないとなかなか情報が入ってきませんから。東京の有名な先生が九州で講習をする時は必ず足を運ぶようにしていました。」
そうやって積み重ねてきた経験があるからこそ、今はお客のどんなオーダーにも応える自信があるという横手さん。
「よく『この髪型似合いますかね?』と聞かれるんですけど、似合わない髪型ってほぼないと思うんです。要はこちらが似合わせられるかどうか、なんですよね。その人の顔の形とか髪質、髪のボリュームだとかを見てちゃんと似合わせる。これができるかどうかは経験がものをいうと思いますね」
積み重ねてきた経験の影には「ありすぎて怖いくらい」という数の失敗があるという横手さん。仕上がりが気に入らずに2回、3回と切り直しに来るお客、カットの途中で「もういい!」と出ていったお客は今でも忘れられないといいます。
「この仕事のおもしろさはお客さんの反応が直にわかること。今のお客さんは気に入らなければ次からは来てくれなくなることがほとんどですけど、昔は文句を言われながら何回もチャンスをもらえる時代でした。お客さんから『お前、上手いのう』『頑張れよ』という言葉をもらえることはもちろん励みになりましたし、怒られたり失敗したりした経験でも、お客さんに育ててもらった、鍛えてもらったと思える。だから今の自分があると思います」
女性専用フロアでのレディスシェービングも人気
理容室というと、男性客がメインと思われがちですが、Hair Salon YOKOTEには美容師もおり、2階にレディス専用のフロアを持っていることも特徴です。
中でも人気なのが女性向けのフェイスシェービング。たっぷりのフォームを使ったプロのシェービングで頬の産毛まできれいに剃ってもらうと、驚くほどツルツルのたまご肌に。化粧のノリの違いに驚きます。
さらに顔からデコルテ、背中まできれいにしてもらえるブライダルシェービングを受ける新婦も多いのだとか。美容師でもある横手さんの奥様、真貴乃さんは、成人式や結婚式、七五三などの着付けもおこなっています。
「子どもからお年寄りまで、そして男性だけでなく女性も通うファミリーサロンとして、単にヘアスタイルを変える、整える店というだけでなく、リラックスできる癒しメニューにも力を入れています。シェービングのほかにもヘッドスパやスキャルプケアも男女問わず人気のメニュー。爽快な洗い心地がクセになる『冷シャンプー』も夏の名物となっていて、女性にも人気ですよ」
お客さんを気分よく送り出すために
ヘアスタイルを扱う理美容の仕事は、最終的にお客に喜んでもらえないといけないと横手さんは話します。
「髪型がキマっても、お客さんのテンションを上げるところまでできないと本当に喜んでもらえたとはいえないと感じています。そのために話術とかコミュニケーションも大事ですし、言葉だけでなくマッサージといったサービスや、家で上手にセットする手順を伝えるなど、いろんな面でお客さんがどうしたら喜んでくださるかを常に考えています」
かつては喋ることも練習したという横手さんですが、今はリラックスしてもらえることを重視しているといいます。
「お客さんは喋りたい人もいればそうでない人もいるので、いかに空気を読んでコミュニケーションするかが大事ですね。今はお客さんが眠ってくれたら『成功したな』と思っています。安心して、信頼してくれている証拠だと思うので」
Hair Salon YOKOTEに常連客が多いのは、技術に加え、お客を思う気配りや思いやりが伝わっているからでしょう。とはいえ、「この仕事は“得ては失う”商売」と横手さん。ひとりのお客が一生通い続けてくれることは稀だからこそ、来てくれたお客には常に一生懸命に向き合うことを心がけているといいます。
「今後は男性も女性もゆったり、ゆっくりと過ごしてもらえるサロンにしたいですね。椅子の数を減らしてカフェスペースを作ってコーヒーを出したり、大きなモニターを置いて癒し系の映像を流したり、ほかにはない空間を作ってみたいなと思いますね」
まだまだ夢は広がる横手さん。手が動く限りはこの仕事をずっと続けていきたいと話します。1対1でお客と向き合い、喜んでもらえるこの仕事に対するやりがいは、年々増していっていると話します。
「ファミリーサロンとして人を癒し、幸せにする」
Hair Salon YOKOTE 横手 哲也
Hair Salon YOKOTE
北九州市小倉北区京町1-3-4
TEL:093-531-6777
営業時間:10:00〜19:00
定休日:月曜、第1火曜、第3日曜
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取材・文/写真:岩井紀子