小倉まちじゅうモール

小倉まちなかコラム

卸売会社直営の専門店として、天然まぐろのおいしさを市場価格で伝えたい【九州まぐろ旦過店】

旦過市場のなかでもひときわ威勢のいい掛け声が響く「九州まぐろ旦過店」は、天然まぐろをメインに取り扱う店。ショーケースには艶やかで美しいまぐろの刺身が柵で並びます。海鮮丼や鉄火巻きといったリーズナブルなものもあれば、5,000円近い天然の大とろまで揃い、さすが専門店! の品揃え。

店頭にはひっきりなしにお客が訪れ、リクエストに応じて店長の後藤 聡志さんが巨大な切り身から希望の部位を切り出します。常連の飲食店店主も多く、それほど地元小倉にはなくてはならない存在であることが伺えます。

▲手際よくまぐろを切り出す後藤さん
▲手際よくまぐろを切り出す後藤さん

知っているようで知らない、まぐろのこと

好きな寿司ネタといえば「大トロ」。刺身もまぐろが大好きな筆者ですが、実はまぐろのことはよく知らない…。取材の前に店の奥の飲食スペースで「天然まぐろ尽くし丼」をいただきながら、まずは後藤さんからまぐろの基本について教えていただきました。

▲赤身、中トロ、大トロ、すき身が入った「天然まぐろ尽くし丼」2,000円
▲赤身、中トロ、大トロ、すき身が入った「天然まぐろ尽くし丼」2,000円

「日本国内で流通しているまぐろの95%は冷凍まぐろです。生まぐろは希少で、『大間まぐろ』など日本近海で獲れる一度も冷凍していない生のまぐろの流通は国内では約5%。大半が飲食店に行ってしまうので小売店で買えることはほとんどありません。

冷凍まぐろは『本まぐろ』、『南まぐろ(インドまぐろ)』、『メバチまぐろ』、『キハダまぐろ』、『ビンチョウまぐろ』の5種類に分類されます。1番日本で流通しているのがメバチ、キハダ。ビンチョウまぐろはツナ缶の原料や回転寿司の赤身などに使われています。この3つが国内の流通のメインです。

希少で王様と言われるのが本まぐろ。『トロ』と呼ばれる部位は本まぐろと南まぐろからしか取れないんです。だからトロは値段が高いんですよ」

また、まぐろの漁法は4種類あるのだそう。

まずは『一本釣り』と言われる釣りもの。これが魚の状態が良く1番高値になります。続いて『はえ縄』は400〜500kmの間にたくさんの針を吊るして釣り上げるもの。次に『まき編み』は網を広げてまぐろの群れを集める漁法。もう一つは『定置網』。まぐろが通るところの網を置いて、入ってくるまぐろを獲るもの。

このようにまぐろは種類と漁法、さらには産地によっても値段が変わってきます。

「まぐろは回遊魚なので獲れる時期によって産地も違うし味も違うんです。今の時期に青森の津軽海峡で獲れる大間のまぐろは、海水温が下がった津軽海峡にイカが入ってきて、それを追いかけてまぐろがが日本海を上がってきているからなんです。そのあとは太平洋に降りていきます。早ければ9月〜2月ごろが大間のまぐろが旬と呼ばれる時期にあたります」

▲店内で味わえるまぐろ尽くしのメニュー。そのおいしさは格別だ
▲店内で味わえるまぐろ尽くしのメニュー。そのおいしさは格別だ

ちなみにこの日いただいた「天然まぐろ尽くし丼」は、アイルランド産のまぐろだそう。

「皆さん好みもあると思いますが、一般的にまぐろの1番おいしい時期は冬。寒さや荒波から身を守るために魚が脂を身に纏ってくるんです。日本で言う大間と限りなく近い緯度にあたるアイルランド(大西洋)産は、寒さや海流に揉まれてしっかり脂がのっていておいしいんです」

九州で、この価格で天然本まぐろが食べられるところは他にない

▲6隻の自社船が今日も世界のどこかでまぐろを釣っている

九州まぐろの親会社は、自社船を6隻保有する天然まぐろの卸売会社。一度漁に出ると1年半は帰ってこないという「遠洋はえ縄漁」で漁獲したメバチまぐろ、キハダまぐろを船上で急速冷凍し、毎朝豊洲市場などに卸している会社です。国内で流通するまぐろは地方の市場にも流れますが、その多くは豊洲市場に集まります。

極上の天然本まぐろが身近な旦過市場で買えるのは、九州まぐろが卸売業者としての顔と独自のルートを活かして仕入れができるおかげのようです。

▲6隻の自社船が今日も世界のどこかでまぐろを釣っている
▲6隻の自社船が今日も世界のどこかでまぐろを釣っている

「うちの店のコンセプトは、天然まぐろ専門店として、天然ものを安くお客さんに食べてもらうこと。

自社船で獲るものはもちろん天然だし、買いつけてくるまぐろも基本的には天然しか販売していません。

じつは九州や四国は養殖事業が盛んで、養殖本まぐろをブランド化して販売することに力を入れている土地なんです。そのせいもあって九州の人たちは養殖まぐろに馴染みが深く、天然まぐろのおいしさ、よさを知らないと思うんです。

豊洲市場なんかで食べられている本当においしいまぐろを九州の人にも食べてもらいたいんですけど、小倉ではやはり値段が高いせいで受け入れられにくいです。それでも東京の1/3くらいの価格に抑えてはいるんですよ。九州で天然本まぐろをこの値段で食べられるところはないと思います。オープン以来、その価値をいかに伝えてわかってもらえるかを模索していますね」と後藤さん。

天然の餌を食べて育ったかどうか、その違いは歴然

▲なじみ客のリクエストに答えながら、まぐろトークが交わされる
▲なじみ客のリクエストに答えながら、まぐろトークが交わされる

天然まぐろと養殖の違いはどんなところにあわらわれのでしょうか。

「私もこの会社に入るまでわからなかったですよ。養殖まぐろを普通においしいと思って食べていましたから」と笑う後藤さん。

「わかりやすく例えて言うと、ハンバーガーばかり食べて太っているのが養殖で、いろんなものを食べて運動しているのが天然。決定的な違いは、生きたものを食べているか、加工されたものを食べているかですね。

自然なものを食べているかどうかの違いが出るのは臭いなんです。ここ数年、養殖も技術が進歩したので昔ほどではないですけど、私たちは食べたらその匂いに一発で気づきますね。養殖ものは餌の味、匂いがあるんです。養殖を当たり前として食べているとあまり感じないかもしれませんが、天然のまぐろを食べて養殖を食べたら、匂いを感じると思います」

そう言われると、養殖魚にみかんやカボスといった柑橘類を食べさせてブランド化している養殖魚も多いように思います。「それも爽やかなイメージで付加価値をつけるという販売戦略でしょうね」

さらに後藤さんは、食に対しての意識が麻痺してきているという懸念も感じているといいます。

「牛も豚も鶏も、完全養殖じゃないですか。天然のものってありえないですよね。それに対して魚はまだ天然を食べられる。天然のものを食べられるのであれば食べたほうがいいと思っているんです。これを伝えるのってすごく難しいんですけどね」

天然のものを食べることがいかに体にとってナチュラルなことか。ハッとさせられる一言でした。

旦過市場の盛り上げ役として

天然まぐろのおいしさをできるだけ多くの人に伝えたいという思いでオープンした九州まぐろ。2023年12月には7周年へと突入しました。

旦過地区での2度目の火災後はライフラインが絶たれたため、一時店を閉めていた時期もありましたが、たくさんのお客からの再開を待ち望む声を受け、再び店を開ける決断をしたといいます。

「ありがたいことに『まぐろを食べたいよ、店がないと便利が悪いよ』と言っていただけた。それに加えて『九州まぐろが旦過にないと活気がない』と言う声が多かったのもありがたかったですね。

この店を始めた時のテーマとして、“旦過市場を盛り上げよう”ということを大事にしていたんです。売り子の掛け声や品揃えでうちが盛り上がれば、旦過市場全体が盛り上がるんじゃないかと考えていたことを思い出させてもらいました。再開してみて『活気が戻った、明るくなったね』と言われたのが、印象的でした」

大きな夢を叶えるために

天然まぐろの価格の高さから、小倉ではなかなか受け入れられづらい、と言う話もありましたが、九州まぐろでは、コロナ期間中も売り上げは落ちなかった上、毎月過去最高の売り上げを更新しているといいます。その要因はなにかと後藤さんに尋ねると「もちろん地元の人にも広まってきてはいるんですけど、インバウンドや観光客にシフトチェンジしたからですね」といいます。

「九州まぐろのお客さんは一般客が7割、近隣の飲食店が3割。これまでは商売の原点は地元の人、地域の人に愛されてなんぼ、長く商売をするためにはそれが大事というのが常識でした。そこに目を向けていたら、コロナ禍でシャットダウンをしたり、今回の火事のように、何かあった時に売り上げが左右されてしまうんです。

でも観光客って火事があったとか雪が降っているとか、あまり関係がないんですよね。観光客も大事なお客さんなので、旦過を訪れる観光客の人が喜んでくれるようにちょっとずつ変えて、今売り上げが伸びている状況です」

店の奥に飲食スペースを設けているのも、その一環なのだそう。築地の場外にあった店をイメージして、ライブ感ある店づくりにこだわったといいます。

▲北九州のプロフットサルチーム「ボルクバレット」の選手たちも店で働いている
▲北九州のプロフットサルチーム「ボルクバレット」の選手たちも店で働いている

「築地や豊洲市場に行ったら場内で食べたいと思うじゃないですか。すごい値段でもそれも価値。旦過市場にもそういう店があってもいいと思うんです。九州まぐろはその先駆けを作っていきたいと思っています。

今後旦過市場が新しくなった時に、古き良きものは残さないといけないとは思いますが、新しいものも取り入れないと絶対に生き残れない。SNSでもそうですが、商売の仕方、宣伝の仕方も変えていかないといけないですよね。

うちが旦過の中で先陣を切って盛り上げて、旦過市場そして北九州、ひいては九州、日本が盛り上がればいいなと思います。いつも『九州まぐろはバカみたいなことやって』って言われるんですけど、新しいことをやって、みんなからいじられながら商売をやるのも嫌いじゃないんで(笑)。みなさんに可愛がってもらっていると思っています」

再開発を前に、新しい挑戦が必要なまち。若い世代が次の市場を作っていくために、盛り上盛り上げ役に徹していきたいと後藤さんは話します。

コロナ前までは大分や福岡にも店を持っていた九州まぐろですが、現在は旦過店の1店舗のみ。それでも将来的には100店舗展開を目指しているといいます。

「親会社であるKMD Japanの頭文字は、九州まぐろドリームの略。これは社長の夢なんです。トルコやインド、スリランカに買い付けに行って輸出入をしているので、海外の店舗も視野に入れて、日本から世界を目指していきたいと思っています」

今後進められる旦過市場の再整備後の見通しはまだ立っていないといいます。それでも新しくなる旦過市場に再び入れることを大前提に考え、「旦過市場をもう一度北九州の台所にしたい」と語る後藤さんは、「今から再出発です」と力強く話してくださいました。

「まぐろも十人十色。奥深いからこそ目利きが大事」
九州まぐろ旦過店 後藤 聡志

九州まぐろ旦過店
北九州市小倉北区魚町4-1-8
TEL:093-513-1500
営業時間:9:00〜17:00(イートイン11:00〜17:00)
定休日: 日曜、年始
SNS:InstagramXFacebook

取材・文/写真:岩井紀子

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