魚町銀天街に店を構えるインテリアショップ、デザイン・ギャラリー 卑弥呼は、全国の作家が手がけた器や雑貨から、無垢材のオリジナル家具、さらに家具のオーダーや住まいのリフォームまでを手がける、北九州ではほかに類を見ない店。小さな器との出会いが、いつしか住まい全体の話へと広がっていく。そんな豊かな暮らしの入口が、ここにあります。
お茶碗ひとつから、豊かな暮らしへと想像が膨らむ店づくり

卑弥呼の創業は43年前。副社長の尾﨑 誠司さんの父である社長の義彦さんが、門司のわずか8坪ほどの小さな店からスタートし、その後場所を移しながら、約25年前に魚町銀天街へと移ってきました。2025年9月には建物の老朽化に伴い、以前の場所から北へわずか50mほどの現在地へと移転。とはいえ、ディスプレイや店の雰囲気はほぼ変わらないため「移転に気づかなかった」という常連客も多く、以前と変わらずセンスのいいインテリアショップとして愛されています。
店の入り口付近は器や雑貨、小物が並び、楽しい雰囲気。ほかの店では出会えないような洗練された商品が溢れているのが卑弥呼の特徴でもあります。さらに店の奥へ進むにつれて優しい雰囲気の丸テーブルや椅子、趣のある食器棚などの家具の存在感が増していきます。
「器をお買い求めになったお客様との話が、やがてその器を収める食器棚の話へと膨らんだり、雑貨を見に訪れたお客様が家具や住まいの相談をしてくださったりすることも多いんです。小さな器ひとつから食器棚やテーブルといった家具につながり、やがてリフォームへ、という流れでお家全体につながっていく。そういう店を目指しているんです」
日々の生活を彩る小さな日用品から、やがて生活の土台となる家具に目を向けていく——この店の動線そのものが、卑弥呼のコンセプトを体現しています。
小倉の人が「見たことのないもの」を届ける——全国を旅するバイヤー、京子さんの目利き

店内に並ぶ器や小物の仕入れを担当するのは、マネージャーでバイヤーでもある尾﨑 京子さん。誠司さんの妻でもある彼女は、沖縄から北海道まで展示会や工房を自ら訪ね歩き、作家と直接向き合いながら店に並べる品を選んでいます。
「作家さんを発掘したり、交渉したりすることは大変だけど楽しい」と話す京子さんは、作品が好きだという気持ちが相手に伝わる瞬間を大切にしています。


▲「コロナを経て、生活が楽しくなるもの、持っていて気持ちが明るくなるものが求められていると感じる」と京子さん
「今はネットでいろいろなもの買える時代ですけど、それでは手に入らないものを見ていただきたいという気持ちで商品を探しています。最初は断られてなんぼの世界ですけど、自分が好きなものをお客様に知ってもらいたいという情熱を持って作家さんとの関係性を築いていきます。大量生産できるものではないけど、丁寧に作られた、ほかでは手に入らないものをご紹介したいという気持ちがありますね」

また、京子さんは、卑弥呼は作家とお客との“橋渡し役”でもあると考えています。
「うちで展示会を行なっても、作家さんがすべての期間在廊するわけではないからこそ、お客様の反応を作家さんへ伝えるのも私たちの仕事だと思っています。そうすることで、作品がさらに磨かれていくこともあると思うんです。自分の作品を好きだと思う人の存在は、作家さんにとってもきっと励みになるはずですから」
実際に手に取って出会える体験を大切にしたいという思いで並べられた品々には、京子さんが作家に会い、手に取り、「これだ」と感じた確かな目利きとセンスが宿っています。
樹齢100年の木が、100年使える家具になる

卑弥呼のもうひとつの顔は、オーダーメイドの家具づくりと住宅リフォーム。誠司さんは大学卒業後に家業に入った当初、まったく経験のない現場で『職人さんたちに相手にもされなかった』といいますが、それでもリフォーム現場で経験を積み、建築士の資格を取得。今では家具から空間の設計まで手がけています。ベテラン職人たちとも息のあった仕事で、空間にぴたりと収まる家具を設計しています。
「オーダー家具の場合、まずお宅を訪問して採寸を行います。壁や柱、配管などの条件をミリ単位で読みながら設計し、職人さんに指示を出していきます。設置するスペースに家具をきれいに収めるには、見えない苦労がたくさんありますが、“難しさ”は“面白さ”でもある。納品するその瞬間まで悩んで考えて。最初からそこにあったように見える作品ができて、喜んでもらえた時はたまらなく嬉しいですから」
さらに卑弥呼で扱う家具の多くは、樹齢100年以上の木材が使われています。天然木ならではのどっしりとした佇まい、丸みのある温かなフォルムの家具は、まさに“一生もの”と思わせるものばかり。
「飛鳥時代に建った法隆寺が昭和の大改修まで1,000年以上保ったのは、樹齢1,000年以上の木を使っていたから。樹齢100年の木は、腕のいい職人の手にかかれば100年使える家具になると、よくお客様にお話しています。気に入った家具を使い、それを受け継いでいくって、いい文化だしいい暮らし方だと思いませんか」

実際、卑弥呼の家具は、親から子へと受け継がれる例も少なくないといいます。傷がついてもそれは味になるし、削ったり直したりしながら長く使い続けることができる。誠司さんも、父のお下がりのタンスを塗り替えて使っているそうです。
また顧客アンケートでは、卑弥呼で丸テーブルと椅子を新調したお客が「思春期で自室にこもりがちだった娘がダイニングで過ごす時間が増えた」と回答を寄せてくれたこともあったといいます。「そういう話を聞くと、やっぱり嬉しいですよね」
家族とともに歳を重ねていく家具——それが卑弥呼の家具づくりの根幹にある考え方なのです。
「最終的には、人と人の話になると思うんです」
誠司さんが仕事の中で大切にしてきたことは「できません」とは言わず、まずは「やります」と言い、そこから方法を考え続けることだといいます。尊敬する職人が決して「できない」と言わない人だった。その背中を見てきたからこそ、自分もそうありたいと思うのだといいます。

「卑弥呼が変わらず大切にしているのは人と人の関係ですね。作家さんとの関係、職人さんとの関係、そしてお客様との関係。最終的には、人と人の話になると思うんです」という誠司さんの言葉に京子さんも頷きます。
京子さんが全国から集めてきた器を手に取り、誠司さんに住まいの相談を持ちかける。そんな時間を過ごしているうちに、気がつけば「暮らし」そのものを丁寧に見つめ直すきっかけをもらう。卑弥呼を訪れた人の中には、そんな経験をする人も少なくないでしょう。

「人とのご縁を大切にし、お客様の満足を叶えることで自分の成長につなげたい」
デザイン・ギャラリー 卑弥呼 副社長 尾﨑 誠司
デザイン・ギャラリー 卑弥呼
北九州市小倉北区魚町2-1-8
TEL:093-533-2825
営業時間:10:00〜18:00
定休日:年末年始のみ(12/31〜1/1)
SNS:Instagram
取材・文/写真:岩井紀子

