旦過市場でのお買い物途中にサッとお昼を食べたい。そんな時におすすめなのが「手打ちそば 孝゛(GO)」です。「奥田精肉店」と「フルーツ 旬」に挟まれた、間口の狭いこの店は知る人ぞ知る手打ちそばの店。カウンター6席だけのこじんまりとした店構えは隠れ家のような雰囲気で、ひとりでもふらりと立ち寄りやすいのが魅力です。
秋新そばの季節到来。この時期のそばが1年でいちばんおいしい
取材に訪れたのは9月末。ちょうど新そばのシーズンに入った時期でした。そばは北から収穫の季節を迎え、だんだんと南下していきます。この日のそばには北海道の雨竜町産の新そばが使われていました。
「新そばの出始めの時期は北海道の雨竜町のそば粉と摩周そばを、11月になると茨城の常陸秋そば、12月になれば阿蘇の久木野の新そばが入ってきます。今の時期以外は基本的に、甘くておいしい久木野のそばを使っています」と語るのは店主の上村孝一さん。毎日店の2階でそば打ちをしているそうです。
「そば打ち3年、こね8年」という言葉もある通り、おいしいそばを打つには高い技術が必要といわれ、湿度や温度、こねる時間などでかなり出来が変わると聞きます。 「そば粉が持つ甘さとか香りといった、品質を落とさないで打つことが大事。センスのある人は綺麗な麺をつくりますよね」という上村さんは「自分はセンスがないから(笑)」と謙遜しますが、孝゛のそばは細くきれいに揃った麺で、しっかりと噛みごたえも楽しめ、喉ごしもなめらか。
「いちばん大事なのは、きれいに粉に水をまわしていくこと。これを失敗すると茹でた時にボロボロとちぎれてしまいます。あとは生地を均等に伸ばす「のし」の作業も大事。きれいに厚みを揃えるのがいいんだけど、微妙に変わってしまうと、それは悲しいね」
「大事なそば粉だから、失敗せんように」と、上村さんは毎日そば打ちに励みます。
ツウは冬にざるそばを食べる。なぜなら…
「『ざるそば』というと、どうしても夏に喜ばれるメニューだけど、本当は秋から冬にかけての今からの時期がいちばんおいしいの。特にうちは久木野産のそばが入ってくる真冬がいちばんおいしいんですよ」
寒くなるとつい暖かいそばを選びたくなるものですが、新米が喜ばれるように、採れたての新そばのおいしさを味わえる秋〜冬にかけての時期こそ、そば本来のおいしさをダイレクトに味わえる「ざる」で味わうのがおすすめ。これからはぜひ、冬こそざるそばを食べましょう!
孝゛では、ざるそばには手打ち麺を、汁物のメニューには機械打ちの麺を使っていますが、プラス200円で手打ちそばに変更することもできるそう。せっかくなら手打ちそばを味わいたいものです。
そしてこの店では、そばを食べた後の「そば湯」もぜひ味わっていただきたい。
一般的にそば湯といえば、そばの茹で汁を提供するもの。水溶性の栄養素が溶け出していて“栄養の塊”ともいわれますが、孝゛のそば湯は特別。小さじ山盛り1杯ほどのそば粉を水に溶いて、香りが立つよう沸騰直前まで温めて提供されます。白濁したそば湯は茹で汁以上に濃厚で、口の中にねっとりと広がるそばの風味を楽しめます。
そば湯は手打ちそばには無料で、それ以外のメニューの場合は有料でつけることができます。
魅力的な旦過へ。うどん店から転身して10年
上村さんが旦過市場に店を構えてから、今年でちょうど10年。それまでは三萩野で「釜揚げうどん 孝゛」という店を営んでいました。うどんと並行してそばの勉強をしていたところに、たまたま現在の物件の話があったといいます。
人通りの多い旦過市場で店を出すチャンスは魅力的でした。そこで心機一転、うどんをすっぱりとやめて、そばに勝負をかけたのだそう。
孝゛で食べられるメニューは、手打ちのざるそば(大盛りもあり)や「鴨汁そば」などの冷たいそばのほか、暖かいそばが7種。そばのほかには徳島の「半田手延べ麺」を使ったうどんメニューや、市場内の「九州まぐろ」から仕入れた「まぐろ漬丼」などもあります。天ぷらなどの素材はもちろん旦過市場で調達しています。
「やっぱりお客さんが来てくれて、おいしかったと言ってくれるのがいちばんの励み。市場の人、買い物途中の人、サラリーマン、時には海外の人もきてくれます」と話す上村さんは
今72歳。「もう焦る年でもないから、今後はぼちぼちやっていきたい」といいます。
「春にケガをしたのをきっかけに、夕方まで営業していたのを14時までに短縮して、休みは火・水の週休二日。ぜいたくな働き方ですけど、今はそれくらいがちょうどいいですね」
活気ある旦過市場の中にひっそりと佇む店で、おいしい手打ちそばを啜るひととき。地元ツウ気分を存分に楽しめる穴場店のひとつです。
「今日もぼちぼち。いつもあなたの“そば”に」
手打ちそば 孝゛(GO) 店主 上村孝一
手打ちそば 孝゛(GO)
北九州市小倉北区魚町4-1-33
TEL:090-2511-0098
営業時間:11:00〜14:00
定休日:火曜、水曜
席:6席
取材・文/写真:岩井紀子