2022年に起こった旦過市場一帯の火災では、小倉の穴場的な存在だった路地裏の飲食店街「新旦過横丁」も消失してしまいました。個性的な飲食店がひしめき、異世界に入り込んだような独特な雰囲気が人気だったエリア。隠れ家フレンチレストランとして人気だった「えしぇ蔵」もまた、2度目の火災で全焼の被害を受けてしまいました。その店のオーナー・青山弘記さんは今、魚町銀天街にある雑居ビルの一角に新たなビストロを開き、再起を果たしています。
再開直前に起きた2度目の火災で失った「えしぇ蔵」
4月の火災では、えしぇ蔵はかろうじて難を逃れ「消火活動の際に2階のガラスが2枚割れただけで済んだ」という青山さんは、近隣の店舗と協力してライフラインを復旧させ、9月からの営業再開を目指していたといいます。その間、魚町銀天街内にできた小倉屋台村《旦過復興屋台村》で、3ヶ月限定の営業を行っていたその最中に、2度目の火災の報せを受けたのだそう。
「まさか、という思いでした。心配してくれたお客さんも屋台村に顔を見に来てくれて、私たちも再開を目指して意気込んでいたところだったので、ショックは大きかったです」
新旦過で14年愛された店をなくしてしまった青山さんに声をかけたのは、魚町銀天街に面したビルのオーナーでした。料理教室などに使われていたビッコロ三番街の一角で店をやってみないかという話でした。 「知り合いの店で雇ってもらう話もあったけど、なんとか場所を探して自分で店をやり直したいという思いもありました。でも、新旦過横丁みたいな場所はなかなか見つからず、ある程度機材も揃っているビッコロ三番街で、まずは店を開けようと思いました」
カジュアルなビストロとして、店名も新たに再スタート
2022年10月にビッコロ三番街に「ビストロ青山」をオープンさせた青山さん。えしぇ蔵の名は残さず、新たな名前でスタートを切りました。
「店のシンボルでもあった看板も燃えてしまったし、以前のような本格的なフレンチを作れるだけの設備もない場所なので、自分の名前で新たなビストロとしてスタートしようと思いました。今はランチ営業と、夜はアラカルトを提供しています。ご要望があればコースやお持ち帰り用のオードブルにも対応しています」
夜のメニューでは、えしぇ蔵の名物だったという「ブルーチーズ煮」も。メニューは当時の1/3程度に減ったものの、お馴染みのメニューも残しながら営業しています。 リーガロイヤルホテル小倉をはじめ、ホテルやレストランで腕を磨いてきたという青山さんの料理のこだわりは、地元で採れた野菜、旦過市場で仕入れる新鮮でおいしい肉や魚を使って、手頃な価格で気軽に洋食を楽しんでもらうことだといいます。
「フレンチというと、ハードルが高いイメージがありますよね。どんな料理かわからないメニュー名だったり、ワインを飲まないといけない気がしたり、カッコつけないといけない感じ。でも、ごはんってそういうものじゃないんです。小さい子どもがいても気兼ねなくゆっくり食べてほしい。だからみんなが来やすくて、アットホームな店が、僕の目指しているビストロです」
そういう意味では、新たな店はビルの通路に面したオープンな場所にあるので入りやすく、肩肘張らずに料理やお酒が楽しめそうです。「キッチンに制約があるので以前と同じようにとはいきませんが、おいしい料理を揃えています。ワイン1杯だけでも飲めるような店だし、かしこまらずに立ち寄っていただきたいですね。夏になったら表にテーブルを出したりして、賑やかに盛り上げていきたいです」
いつかは貸切のようなスタイルの店を出したい
青山さんにとって、今のビストロ青山は、次のステージに進む準備段階の場所。少なくとも1年間はこの場所で営業し、いい場所が見つかれば新しい店を構えたいと考えているそうです。
「うちも子どもが小さいのでわかるのですが、家族で洋食を食べに行くとなると、お客さんの方が気を遣われるんです。たから将来的には、1家族をもてなせるような、貸切のようなスタイルで気兼ねなく洋食を楽しんでもらえる、アットホームな店を作りたいと思っています。プライベート感のある洋食店ってあるようでないでしょ。大人も子どももゆっくりごはんを食べられて、子どもが騒いでも気を遣わないような。フレンチにこだわらず、ハンバーグとかグラタンとか、子どもが喜ぶようなメニューも出したいし、ワインより焼酎が飲みたいって気軽に言えるような店が理想です」
「新旦過横丁時代の近隣の仲間たちも、少しずつですが小倉のあちこちで店の営業を再開し始めています。せっかくいい繋がりができていたからバラバラになってしまったのは残念ですが、それぞれに頑張ってほしいと思っています」
「何があっても気持ち次第。前を見て、できることをひとつずつ。前進あるのみです」
ビストロ青山 青山弘記
ビストロ青山
北九州市小倉北区魚町3丁目3-20 ビッコロ三番街 1F
TEL:090-1348-7154
営業時間:12:00〜14:00/17:00〜21:30(土曜は夜営業のみ)
定休日:日曜(祝日は営業)
Instagram:https://www.instagram.com/eche_zou/
取材/写真:岩井紀子