小倉まちじゅうモール

小倉まちなかコラム

▲「株式会社 川原」の4代目、永田源一郎さん

卸売市場内で営業を続けながら旦過での再建を目指す鮮魚店【株式会社 川原】

2022年4月19日深夜、旦過市場を襲った1度目の火災。大正3年から続く店を焼失するも、火災当日から中央卸売市場内で営業を続けながら、再び旦過市場に店を構えることを目指す鮮魚店があります。

「福く 生魚 川原」。その目利きは信頼が厚く、北九州市内の有名寿司店をはじめ、全国各地の料理店に魚を卸す一方、北九州市民にとっては手頃な価格で新鮮で上質な魚を買える店として愛されてきた鮮魚店です。

「お客様に迷惑はかけられない」

訪れたのは西港にある北九州市中央卸売市場。海産物の競りが行われる水産棟のそばに、川原が間借りして営業するスペースはありました。

川原の4代目を務める代表取締役の永田源一郎さんは、火災当日のことをこう振り返ります。

「僕らは毎朝3時には卸売市場に入るのですが、火事の一報を受けてすぐに店での営業はできないと判断しました。それで卸売市場内に場所を貸してもらえるように市と市場にお願いをしました。普通ならすぐにそんな対応はしてもらえないんですけど、火災という特別な状況だったので快く対応してもらえて、本当にありがたかったですね」

▲卸売市場の一角に張ったテントが、川原の仮設の作業場だ
▲卸売市場の一角に張ったテントが、川原の仮設の作業場だ

火災の詳しい状況がわからない中、別の場所での営業準備は気が気でなかったと想像できます。それでも「川原を信頼して注文をしてくれるお店に迷惑はかけられませんから。迷いはなかったですね」

卸先である料理店は寿司店、フレンチレストランなどジャンルもさまざま。北九州市内に留まらず、東京など全国に玄海灘で採れた新鮮な魚を届けています。中には25年以上の付き合いになる店もあるそう。川原が選ぶ魚を求める店があるからこそ、何があっても休むことはできない、という決断につながったのでしょう。

▲ほかの水産会社から提供してもらっている水槽にはこの日、20kg級のクエも泳いでいた
▲ほかの水産会社から提供してもらっている水槽にはこの日、20kg級のクエも泳いでいた

その日以来続く卸売市場での営業は小売店への卸しが中心となります。ただ、旦過市場で営業していた時のように「一般のお客様に販売できないことがもどかしい」とも話してくれました。

狙いはその日の“ナンバーワン”の魚

鮮魚店・川原が100年以上にもわたり信頼され続ける理由は何なのか、永田さんに尋ねてみました。

「毎日たくさんの魚が競りにかけられますが、その中でもいいものは1匹か2匹。その日1番、2番の魚を狙う、というところですかね。いいものを買いたい、それだけですね」 ちなみに、いい魚は「パッと見てすぐ分かる」のだそう。“魚を見定める目”は、50年以上競りに出ている永田さんの経験があってこそ。それでも思いがけない上物に出会った時はドキッとするのだそう。

▲競りが終わった後の市場は、思いのほか静かだった
▲競りが終わった後の市場は、思いのほか静かだった

また、競りでの値の付け方にも川原独自のスタイルがあるようです。

「競りは大体どんどん値が上がっていくでしょ。僕は魚を見て、頭の中で大体の値段を計算したら、最初からその値段を付けるんです。たとえば5,000円で落ちるだろうと思ったら、最初から5,000円で値をつけますね。競り子の人も分かるんでしょうね、大体落ちますから(笑)。ほかの人は3,000円とか低い金額から値をつけて、段々と値が上がっていくやり方なんですけどね」

競り子とのあうんの呼吸も、これまで永田さんが培ってきたものなのでしょう。 永田さんの質の高い魚へのこだわりと、いわば“審魚眼”は漁師にも知られていて、ときには魚が獲れた時点で『これは川原に』ととっておいてくれることもあるのだそう。

▲「イカだと細くなくて、身が厚い、こういう格好が1番いいイカなんですよ」これをひと目で見分けるというのだからプロはすごい!
▲「イカだと細くなくて、身が厚い、こういう格好が1番いいイカなんですよ」これをひと目で見分けるというのだからプロはすごい!
▲藍島の最高級のウニ。芸術品のような美しさと見たことのないサイズ感! 東京・銀座の寿司店へと届けられるのだとか
▲藍島の最高級のウニ。芸術品のような美しさと見たことのないサイズ感! 東京・銀座の寿司店へと届けられるのだとか

「魚は生で食べることも多いですから、鮮度と味の2つは、絶対に揃わないといけないですよね。旦過市場でお客様の声を聞いた品揃えをやってきましたし、“よりおいしいものを”とこだわることで、お客さまとの信頼関係も築いてこれたと思っています」

年内に旦過市場での店の再建を目指す

川原は中央卸売市場での間借り営業を続けながら、旦過市場の同じ場所に店を再建するための準備を続けています。

「火災にあって、たくさんのお見舞いや応援の声をいただきました。『早く旦過に戻ってきてください』『待ってるよ』という声には本当に勇気づけられましたし、やる気が湧きますよね」

▲水槽から揚げた魚は手際よく洗いの作業へ。店と変わらず、活気に満ちていた
▲水槽から揚げた魚は手際よく洗いの作業へ。店と変わらず、活気に満ちていた

市による旦過地区の再整備のため、元の場所に店を再建しても2年後には移転しなければなりません。それでも旦過市場での再オープンにこだわるのは、「あの場所が好きだから」と永田さん。

「創業者、2代目を継いだ叔母、3代目の姉、そして僕と受け継いできた店の歴史を絶やすわけにはいきませんから、頑張ってやります」その言葉と表情に、永田さんの強い決意を感じました。

永田源一郎氏
▲永田源一郎氏

最後に、この仕事のやりがいについて尋ねました。

「まず朝は、競り場で自分が思っていたような魚が手に入った時がうれしいでしょ。それを店に持って帰ってお客さんに買ってもらったらまたうれしい。それで翌日『昨日の魚おいしかったよ』と言われたらもう一度うれしい。喜びの多い仕事ですね」

▲作業場の壁に飾られたスタッフ全員での記念写真。被災直前に撮られたものだ
▲作業場の壁に飾られたスタッフ全員での記念写真。被災直前に撮られたものだ

苦難に負けず、ただ真っ直ぐに前へと進む川原。あたたかい従業員の皆さんと一緒に旦過市場に戻ってくる日を心待ちにしたいと思います。

「お客様と正直にお付き合いして、喜ばれることが1番うれしい」
永田源一郎

取材/撮影:岩井紀子

株式会社 川原
福岡県北九州市小倉北区魚町4-2-22
TEL:093-521-0862 FAX:093-522-7888
9:00〜16:30/日・祭日・水曜日
魚味噌漬け・ふぐ、季節の魚

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