みかげ通り沿いのビルの5Fにあるシェアオフィス「MIKAGE1881」は、デザイナーや映像制作会社、アプリ制作会社など、さまざまな分野のクリエーターたちが入居するシェアオフィスです。
2012年に開設したMIKAGE1881は、7つのオフィススペースとソファや広々としたデスクを配置したコミュニティスペースとで構成されています。
シェアオフィスという複数の事業者でオフィスを共有する形態は今でこそ多く見られますが、当時はまだまだ数も少なかった時代。小倉の中心部で先駆けとなるスペースをつくることにはどんな背景があったのでしょうか。
日本で初めて開催された「リノベーションスクール」でのプランを採用

ビルのオーナーである松永不動産会社の松永 優子さんが、空きスペースになっていたワンフロアをシェアオフィスへと変えるきっかけになったのは、2010年から北九州で始まった、リノベーションで空き店舗を甦らせるまちづくりの取り組みでした。
「もともと入居していた飲食店が撤退後、かなりの広さがあるこのフロアはビルの躯体だけを残したスケルトンのまま、入居者がいない状態が続いていました。ちょうどその頃、魚町で行われた古いビルをリノベーションによって甦らせた〈メルカート三番街〉(2024年に解体)を見せてもらったんです」

「北九州で初めて開催された『リノベーションスクール』では、全国から集まった参加者たちが実際の空きビルや空き店舗をリノベーションするプランを企画して、オーナーに提案するということが行われていました。『これはおもしろいから絶対やってもらいたい』と思って、スクールでの企画立案をお願いしました」

実際にスクール生からシェアオフィスの企画を提案された松永さんは、自分では思い浮かばなかった空間の使い方に感心すると同時に、「すごくいいな、おもしろいな」と思ったといいます。
「みんなでシェアするからこそ安い賃料でたくさんの人に利用してもらえるこの方法は、空きフロアを有効的に活用できる魅力的な案でした」
入居者同士のコミュニケーションも活発で、協業も生まれる場に

MIKAGE1881は開設当初からさまざまなクリエーターが入居し、現在も満室。抜群の立地と、365日24時間自由に利用できるという体制は、コロナ禍以降働き方の多様化が進んだ現在の働きやすさにもマッチしているようです。
開設当初からのメンバーであるIT系システム会社〈ぐるり〉の竹森祐一さんに話を聞くと、「何よりまちなかにあってアクセスがいい拠点ができたことと、入居する小さな会社同士でコミュニティができて、お互いに仕事を依頼しあったりできることがいい」と話します。

MIKAGE1881ができた当初は入居者を集めてランチ会を催したり、屋上でBBQをしたりして交流を深め、みんなで旅行に行ったこともあるといいます。小さな会社が単に同じフロアに居合わせるだけでなく、オーナーも含め密に関わっていこうとする当初の取り組みが、MIKAGE1881の居心地の良さにもつながっているように感じます。

「単なる店子さんというよりも、もっと近い関係を築けたことも、ここをシェアオフィスにして良かったと思えるところですね」と松永さん。また、松永さんが商店街の理事をしていることもあり、入居者が商店街の催しに参加するなど、地域とのつながりがあるのもこのシェアオフィスならでは。地域と繋がりの深いクリエーターが複数いれば、新しいものが生まれる可能性も広がっていきそうです。
北九州が好きで、このまちでがんばる人を応援したい

「北九州ってがんばろうとする人が多いまちだと思うんです。そしてそういう人たちが活躍できるベースもあるまち。だからそういう意欲のある人たちがもっと増えてほしいと思うし、MIKAGE1881という場所が彼らを後押しできる場でありたいと思います。なにより、この場所を通して自分のまちを好きだと思える、そんな存在でありたいですね」
松永さんはビルオーナーとして場所を提供しているだけでなく、居心地の良いコミュニティであることが大切だと思っているそう。
実際、入居者同士がいい距離感を保ち、秩序を乱さずに運営できているからこそ、長期で入居する利用者が多いといいます。
「入居していて、手狭になったからと広いスペースに移る人も多いんです。ほかのシェアオフィスに移るのではなく、MIKAGE1881の中で引っ越しをする。それって事業が成長しているっていう証なので私としても嬉しくなります。MIKAGE1881から大きな企業が生まれたり、世界で活躍する人が出てきたらいいなと、勝手な夢を持っています」
「北九州、小倉というまちを愛しながらチャレンジできる場所でありたい」
MIKAGE1881 オーナー松永 優子

MIKAGE1881
北九州市小倉北区魚町2-1-7 ACT松永ビル5F
問い合わせ:北九州家守舎
取材・文/写真:岩井紀子