2010年に日本政府が国策として「クールジャパン」を打ち出し、漫画やアニメといったポップカルチャーは日本の重要な文化資源として位置づけられました。この流れを受け、小倉駅北口に建つ〈あるあるCity〉5F、6Fに北九州市漫画ミュージアムが開館したのが2012年8月のこと。
娯楽のひとつとして多くの人に親しまれる漫画を、さまざまな視点から知り、学び、楽しむことができる北九州漫画ミュージアムは、今年開館から13年を迎えます。
日本が誇る芸術文化である漫画を、見て触れて楽しむミュージアム

北九州漫画ミュージアムは、『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』などの作品で知られ、初代名誉館長も務めた漫画家・松本零士氏の作品展示をはじめ、北九州にゆかりのある漫画家の作品を収集・保存・展示しています。
常設展の入り口では『宇宙海賊キャプテンハーロック』の戦艦アルカディア号のイラストと等身大のハーロックのフィギュアがお出迎え。館内に進むと、小学4年〜高校までを北九州で過ごした漫画家・松本零士氏の生い立ちや作風など、さまざまな角度から紹介するコーナーへと続きます。

さらに進むと、表現豊かな漫画表現のテクニックを解き明かす「漫画の七不思議」コーナーへ。漫画ができるまでの過程や仕組みの紹介のほか、門司区出身で日本の少年漫画の発展に貢献した漫画家・関谷ひさし氏のアトリエを再現したコーナーもあります。


▲漫画を描くテクニックを解き明かすパネルの中には、記念撮影コーナーも
北九州にゆかりのある漫画家は、現在北九州市漫画ミュージアムの名誉館長を務めるわたせせいぞう氏をはじめ、陸奥A子氏や北条司氏など100名以上もいるといいます。世代やジャンルを超えた多くの漫画家を輩出した〈漫画の街〉北九州の文化的環境を紐解くコーナーや、日本の漫画の歴史を振り返る「漫画タイムトンネル」など、さまざまな角度から漫画の楽しみを伝えてくれる展示が魅力です。
1日中漫画の世界に没入できる、圧巻の閲覧ゾーン

北九州市漫画ミュージアムの中でも特に人気が高いのが、常設展示の先にある閲覧ゾーン。約7万冊の漫画単行本を収蔵するこのコーナーでは、びっしりと並べられた書架から好きな作品を自由に選んで、ソファやカウンター、寝ころびスペースでゆっくりと読むことができます。一角にはソムリエカウンターもあり、漫画に関することを気軽に尋ねることもできます。


▲定期的に新しい図書の追加もある閲覧コーナー。話題の作品から往年の名作までさまざまな漫画が楽しめる
利用時間の制限もないので1日中好きなだけ漫画の世界に没入できるのが閲覧コーナーの魅力のひとつ。利用者の年齢層も幅広く、子どもから高齢者、時には出張中のサラリーマンが列車の時間まで漫画を読んで過ごす姿も。館内の端末はもちろん、ホームページからも蔵書検索ができるので、お目当ての作品を探して訪れることもできます。
公立ミュージアムだからこそ守れる”漫画文化の価値”

「国内には漫画に関する施設は多くありますが、うちのように学芸員が在籍し、常設展示があって、原画の保存管理までをしている施設は数少ないですね」と話してくれたのは、漫画ミュージアムの中村 祐馬さん。
北九州市の豊かな漫画文化を有効活用する文化拠点として設置されたミュージアムでは、関谷ひさし氏、陸奥A子氏、畑中純氏、文月今日子氏など、北九州ゆかりの作家の作品を中心に収集を続けています。
「元々漫画は単なる娯楽のひとつとして見られていましたが、近年では世代を超えて誰もが楽しめるマルチメディア的な表現手段として認識されるようになり、日本が世界に誇る現代の芸術文化としての地位を確立してきました。漫画の原画は適切に保存しないと100年経つと消えるのではとも言われています。今はデジタル作画も主流となってきており、紙の肉筆漫画の原画はさらに価値を上げていくのではないかと考えています」と中村さん。
江戸時代の浮世絵が大衆文化として扱われ、その芸術的価値に気づかないまま海外に流出してしまった歴史を教訓として、貴重な原画の保存は北九州市漫画ミュージアムが担う大切な役割のひとつです。
また、年に4回程度、さまざまな企画展も開催されています。今後の企画展の予定は、2025年3月15日〜5月11日まで、『画業50周年記念 わたせせいぞうの世界展 −The road to Seizo Watase−』が開催予定。わたせせいぞう氏の画業50周年を記念した展覧会です。

「漫画ミュージアムでのわたせせいぞう先生の展覧会では、80歳を迎えるわたせ先生が描き出すモダンさ、新しい作品を作り出す力強さを見てほしいですね」と話すのは学芸員の柴田 沙良さん。この展覧会のために描き下ろす北九州をモチーフにした作品も披露される予定だそうで、期待が高まります。
さらに2025年は〈北九州漫画ビート〉と銘打った企画展シリーズを開催予定。『画業50周年記念 わたせせいぞうの世界展』を皮切りに、若い女性に人気を博す藤原ここあ氏の『妖狐×僕SS』(通称いぬぼく)の展示など、北九州ゆかりの作家に焦点を当てた展覧会を連続して開催予定です。

北九州市漫画ミュージアムでは、そのほかにも次世代育成につながる催しとして、月に2回「漫画体験」や「漫画スクール」も開催し、誰もが漫画に親しむ機会を提供しています。また、今年で10回目を迎える4コマ漫画のコンテスト「北九州国際漫画大賞」には毎年世界から多くの作品が寄せられています。このコンテストは〈漫画の街〉として北九州市を国際的にアピールする機会にもなっています。
「漫画文化の振興は、市民の日々の生活を豊かにするだけでなく、北九州市への愛着を感じるきっかけにもつながると考えています。漫画を通じて北九州市に関心を持ち、理解を深めるきっかけをつくことが、北九州市漫画ミュージアムの重要な役割。これからも市民に愛される居場所づくりを目指していきます」
「漫画は人が生み出す愛情のようなもの」
北九州市漫画ミュージアム
北九州市漫画ミュージアム
北九州市小倉北区浅野2-14-5 あるあるCity 5F、6F
TEL:093-512-5077
営業時間:11:00〜19:00(※入館は閉館の30分前まで)
定休日:火曜(休日の場合はその翌日)、年末年始、館内整理日)
入館料:常設展示入館料:一般480円/中高生240円/小学生120円
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取材・文/写真:岩井紀子