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小倉まちなかコラム

早朝から手間をかけてつくる、父の代から変わらぬ味【岩田屋餅菓子店】

早朝4時。まだ暗い店の奥で米を蒸す。小豆を炊き、餡をつくる。そんな静かで地道な時間を積み重ねて心も弾む色とりどりの和菓子やおこわ、餅やまんじゅうが店頭に並びます。
旦過市場で唯一、市内でも数えるほどしかない餅菓子専門店である岩田屋餅菓子店の日々は、創業以来変わることがないといいます。
「接客は苦手で」と笑う店主の岩田 政己さんと笑顔で接客に励む妻の美紀さん、夫婦二人三脚で営む旦過の老舗店を訪ねました。

父親の背中を見ながら働いた貴重な時間

「もともとは祖父が旦過で乾物屋をしていたんです。親父の代から今の場所で餅屋を始めて、それが昭和23年だからもう76年になりますね。じいちゃんが『餅屋の方が儲かる』と言ったからだと聞いています」
創業当初から変わらないという趣のある佇まいの岩田屋餅菓子店。この店で岩田さんが働くようになったのは27歳の時だったといいます。

「この店に入ったのは子どもが生まれたのがきっかけ。その前は飲食店で料理を作っていたんですが、実家だと働き方にも融通がきくだろうと思ったのと、何かあった時でも家族がそばにいると頼りになるだろうと思って。でも蓋を開けてみたら朝4時から夕方までしっかり店に立ってないといけないんですけどね」と笑う。

3年前に代替わりをするまでは、親子で一緒に働いていたという岩田さん。子どもの頃から店の手伝いは当たり前で、婚礼用の赤飯を折箱に詰めたり、年末の餅売りを手伝っていたといいます。それもあって、父と一緒に餅や菓子を作るのは好きだったといいます。
「親父は75歳くらいまで店に出ていたけど、しんどかっただろうなと思いますよ。僕でも年々体力的にしんどくなってきていますから。朝は早いし、30kgあるもち米の袋が持てなくなるし。親父は腰を痛めていたけど、本当によく頑張ったなと思います」

「考え方の違いでぶつかることもあり親子で働くのは大変だった」と言いながらも、先代が築いてきた手間を惜しまない作り方と味を変えることなく受け継いでいる姿に、父へのリスペクトを感じます。

「ブレないように、毎日同じものを作ろうと思っている」

岩田屋餅菓子店に並ぶ商品は、かき餅、桜餅、赤飯、大福、塩あんもち、あんもち、饅頭、あわゆき、水羊羹、あられなど大体15種類程度。季節商品も人気で、お彼岸の時期はおはぎ、春はひな祭りの菱餅や桜餅、いちご大福、4月になると端午の節句に合わせて柏餅、ちまき、夏はくず、わらび餅など清涼感のある和菓子、9月くらいからは栗を使った商品が並びます。陳列スペースが限られているため、あまり種類を増やせないのが悩みだとか。

どの商品も原材料から手作りでつくっているものばかりで手間がかかっているのが、この店の商品の特徴です。
「小豆を仕入れてあんこから炊いて、こしあんと粒あんを作ります。赤飯も豆を炊くところから、山菜おこわも出汁を引いて炊きます。あられもかき餅を作って薄く切って乾燥させて油で揚げる。全部の作業をここでやっています。手間がかかるんですけど、それを惜しまずにやるということは、親父の代からずっと変わらずにやってきたこと。味が変わったと言われるのが嫌だから、20年前からやっていることはずっと同じです」

あずきは北海道十勝の大納言小豆。もち米は佐賀県産のひよくもち。「基本は国産を使いたい」と素材選びにもこだわりを感じます。
「桜餅の桜の葉っぱも国産。葉っぱだけで1枚20円もするんです。桜餅は1個130円だからほとんど儲けはないけど、中国産の葉を使ったりすると、気づく人は気づくから他のものには変えられません」
それは、お客が岩田屋の味をわかって買ってくれている証拠。原価がかかりすぎていても、変えるつもりはないそうです。
また、秋に登場する栗羊羹や栗赤飯などには、山口県厚保産の栗にこだわっているそう。
「栗大福は甘く炊くのでまだいいですが、栗赤飯の栗はゆがくだけなのでそのままの味で勝負するには厚保の栗でないとダメ。だから厚保産が入らないと作りません。栗自体の味がしっかりしているから、ゆがいて塩だけで十分においしいんです」
厚保の栗に出会うまでは栗羊羹もつくっていなかったといいます。淡々とした語り口の岩田さんの奥に、本当においしいと思えるものしか出したくないという、職人としてのプライドを感じました。

「仕事は毎日同じですが、毎回同じものを作ろうと思ってやっています。ブレ幅がないように。これは数をやらないとできないですね。反復練習と同じで、経験と共にブレ幅が小さくなってきたと思います。だからもしミスっても『あれをやらなかったからだ』と自分でも原因がわかる。これはもう経験でしかないですね」

父の代から続く岩田屋の味を大切に守り続けるために、ひたむきに仕事に向き合っていることがわかります。

和菓子をもっと身近に感じてほしい

「接客が苦手なので自分は裏方が専門。全面的に接客をしてくれる妻はおらんと困る存在です」そう語る岩田さん。
お子さんを送り出してから店に来るという美紀さんは、数年前からインスタグラムで新しい客層を増やすことにも力を入れています。

「お客様は年配の方が多いですが、インスタを始めたことで若い世代のフォロワーさんが来てくれたりするようにもなりました。子どもの頃から買いに来てくれていうという方や、『桜餅は岩田屋さんよね』と言ってくださるお客様もいてうれしいですね。ここはお客様の声が直接聞けて、たとえば『淡雪ってなに?』って質問にもすぐに答えられる。対面販売のよさですよね。海外のお客様ともジェスチャーと電卓でなんとかやり取りして(笑)。和菓子という文化を若い方や海外の方にも身近なものとして楽しんでいただきたいと思っています」

「食べ物の仕事は、やっぱりおいしいと言われるのがいちばん嬉しい」と語る岩田さんご夫妻。旅行客がたまたま立ち寄り、おいしかったからと翌日も買いに来てくれることもあるのだとか。地元の人と観光客が入り混じる旦過市場という場所に店を出していることについて訪ねてみた。

「観光の方向けには、本当はお土産になるような商品があるといいんですけど、余計なものを使ってないから日持ちがしないものばかりで…。せめて食べ歩けるような商品をもっと増やせたらいいんですけどね。
地元の人にとっては、旦過市場は生鮮食品を買いに来る場所。その流れで餅や甘味を買ってくれていると思うので、旦過市場という集合体の中にいることに助けられていると思っています。うちの店だけを目指してきてくれる人は少ないんじゃないかな。だからうちにできることも限られているんですけど、要望があったら応えられるようにはしたいですね。」と岩田さん。

市内でも餅屋が少なくなっている昨今。岩田さんは謙遜しますが、岩田屋餅菓子店のニーズは常連客の多さからもうかがい知れます。特に年末、正月用の餅を求める人で人だかりができる様子は恒例です。コロナ禍でも年末だけは例年と変わらなかったというから、「餅屋の方が儲かる」という祖父の言葉も正しかったのかも。
ちなみに昨年末は2週間で2700kgの餅をついたといいます。最後の4日間は1日中餅をつきっぱなしでもお客さんがつき上がるのを待つくらいの人出だったそう。

岩田屋餅菓子店は間違いなく、たくさんの個性ある商店が並ぶ旦過市場に欠かせない存在だと思います。

「毎日同じものをつくる、それが職人」
岩田屋餅菓子店 岩田 政己

岩田屋餅菓子店
北九州市小倉北区魚町4-1-24
TEL:093-521-0028
営業時間:9:00〜17:00
定休日:不定休
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取材・文/写真:岩井紀子

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