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小倉まちなかコラム

食肉卸しで培った目利きでいいものを安く。月3度の半額特売にも注目!【肉の勉強屋】

空前の大規模火災で被災した店が、またひとつ旦過市場に戻ってきました。

かつて大學堂の隣で精肉店を営んでいた「肉の勉強屋」は、旦過地区の2度目の火災で店を消失しましたが、約1年の休業期間を経て、旦過市場北寄りの新たな場所で8月17日に念願の再オープンを果たしました。

ご家族で店を営む店主の安田忠勝さんを訪ね、これまでの苦労や新しい店にかける思いを伺いました。

価格以上のおいしさは卸売りで鍛えられた目利きのおかげ

▲毎月9日、19日、29日は、“肉の日”として全品半額になるお得デーだ(一部商品を除く)
▲毎月9日、19日、29日は、“肉の日”として全品半額になるお得デーだ(一部商品を除く)

1975(昭和50)年から食肉卸業と精肉販売を営んできたという安田さん。それまでは水産物や畜産物を販売する「ニチレイ」の畜産課に勤めており、福岡市を中心に畜産物の営業を担当していたといいます。10年勤めたのちに当時の仕入れルートを生かして独立を決意。地元小倉で食肉の卸販売と小売を始めました。

営業は当初から軌道に乗り、最盛期には80人ほどの従業員を抱える企業に成長していましたが、安田さんが小売業に専念している間に卸事業に失敗。1982(昭和57)年に卸業を廃業し、小売一本に舵を切り直したといいます。

とはいえ、卸し売りを長く勤めていただけあって、肉の良し悪しを見極める目は確か。肉の勉強屋の品揃えにも安田さんの長年の経験が表れています。

「うちで取り扱う牛肉は3割が和牛、7割が国産牛です。同じ国産牛の中にも肉質的に和牛に近い国産、というのがあるんですよ。和牛と国産牛を掛け合わせた『F1』というランクの肉でも、限りなく和牛に近いだろうというものを極力選んで売っています。それが卸屋の目利きですね。卸し屋を何年もやってきたおかげで、肉のいい悪いの判断は普通の人よりできますから。

▲ショーケースには見るからにおいしそうな肉が並ぶ
▲ショーケースには見るからにおいしそうな肉が並ぶ

例えば和牛の枝肉で1700円、F1牛で1500円だったとします。F1牛で和牛に近い肉質のものがあったら私はそれを買います。その判断は目がないとできませんから。国産の中でも和牛に近いものを選んでいるから、お客さんは『ここの肉は値段以上においしい』と思ってくれているんじゃないでしょうか」

この商売をやっていくには品物がいいか、安いか、サービスがいいか、そのどれかがないと難しいと安田さん。火事で1年間休業している間には、お客さんから「いろんなところで肉を買ってみたけど、値段と品物を総合的にみたらオタクがいちばん良かったとわかった」という声も聞いたといいます。だからこそ再開した肉の勉強屋でも、肉の品質と価格のバランスに気を配り、「以前と変わらない商売をしないといけない」と安田さんは話します。

月3回の“肉の日”特売で、お客様に感謝を届ける

▲特売品やオリジナルの商品目当てのお客で賑わう
▲特売品やオリジナルの商品目当てのお客で賑わう

40年以上旦過で精肉店を営んできた肉の勉強屋。長い歴史があるにも関わらず、安田さん自身は「私は“卸し畑の人間”で小売は見よう見まねでやってきた。だから中途半端な小売店なんです」と謙遜します。

「だからそれをカバーするためにも、1ヶ月に3回“肉の日”を設けて、この店を続けられた御恩をお客さんに返す。それくらいしかできないんです。その日は全品半額にして奉仕しようじゃないかとね」

特売を始めた当初は“肉の日”は毎月29日だけでしたが、半額効果は予想以上に大きく、たくさんのお客が訪れ対応しきれなかったそう。それで9日、19日も“肉の日”として、牛肉、豚肉、鶏肉の全商品を半額で販売したといいます。

現在は仕入れ価格の高騰を受け、牛肉、豚肉は全品半額ですが、鶏肉は対象外。それでも薩摩地鶏、日向鶏などは1〜2割引きで提供しています。

「特売は儲けるためにしよるんじゃありません。肉の売り出しを楽しみにしてくれているお客さんもたくさんいると思うので、やれるところまではやろうと思っています」

▲新しい店では「地鶏のタタキ」など新商品の販売にも力を入れている
▲新しい店では「地鶏のタタキ」など新商品の販売にも力を入れている

「肉の勉強屋」という店名の由来を聞くと、「自分が勉強せんやったもんですから、この際店名くらいは“勉強”にしようと思って」と安田さんは笑いますが、しっかりお値段の“勉強”をしてくれているところに商売人としての愛を感じます。

馴染み深い旦過市場で見る希望が人生の励みに

▲安田さんの奥様、娘さんご夫婦の家族4人、同じ思いで新しい店に立つ

2022年8月の旦過地区の火災からこの1年、安田さんはずっと店を再建できる場所探しを続けていたそうです。黄金市場や荒生田なども検討するも、思うような場所は見つからなかったといいます。

そして再出発の場所として選んだのは、やはり長年商売を続けてきた旦過市場でした。

「よそでやったら本当にゼロからのスタートでしょ。旦過やったらうちを知っていてくれているお客さんもいるし、土地の気質もわかっているしね。肉の勉強屋が旦過でまた店を開けたことを、1人でも多くのお客さんが早く気がついてくれて、以前のよしみで買っていただきたい。前の店と変わらないことをわかってくださることを待っています。

私たちも以前の商売以上のことができるように頑張っているし、前の店以下の商売はしないつもりです」

とはいえ、この場所は早くて3年、遅くとも5年後には旦過地区の再開発のために建て替え工事が始まる場所。それでも安田さんはこの場所で「自分なりに、希望を持ってやってみたいことがある」といいます。

「家主さんと契約する時に、新しく建て替えた時も私が希望すれば優先的に契約させてもらう約束をさせてもらったんです。その時は1階で肉屋をやって、2階を焼肉店にするとか、そういう形にしたいと今現在は思っています。そうなれば楽しみだなと思いますよ。

今は店も狭くて設備も中途半端、品揃えも納得がいく形にはできていない。やりたいことの半分以下しかできてないのが現実です。本当に中途半端。それでも1年待たせたお客さんがいるから、再開発の先の希望のある場所で店を再開できたことは本当によかったと思います」

店頭でお客一人ひとりと話をしている時がいちばんの楽しみだという安田さん。

「今日よりも明日、明日よりも明後日に希望を持つ気持ちが生きるハリです。その楽しさが味わえるこの商売が、私の人生の100%を占めているんじゃないかな」

▲店主の安田忠勝さん(中)と店を切り盛りするご家族のみなさん
▲店主の安田忠勝さん(中)と店を切り盛りするご家族のみなさん

「商売は『あすなろ』。今日より明日がより良くなるように。それが楽しいし、人生のハリでもある」
肉の勉強屋 安田忠勝

肉の勉強屋
北九州市小倉北区魚町4-2-23
TEL:093-541-0758
営業時間:8:30〜17:30
定休日:日曜、祝日
SNS:Instagram

取材・文/写真:岩井紀子

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